婚約破棄?喜んで!~溺愛王子のお妃なんてお断り。私は猫と旅に出ます~
「ユリアさまは、どうやってこの世界に来たの?」
「それがよくわからないの。ゲーム全ルート、全猫種攻略、しかもハッピーエンド千回目を貫徹で達成した朝、制服に着替えて部屋を出たらこの世界だったの」
『それが聖女になる本来の条件だからね』
レオンは私に向き直ると続けた。
『僕、君たちがいた世界が好きなんだ。だからよく遊びに行ってたんだけど、トラックに轢かれそうになったところを、ジュリアが助けてくれたんだ』
「トラック? もしかしてレオは、私が助けた猫さんだったの?」
前世で最後に見た猫は確か、金色の猫だった。
『うん。助けてくれて本当にありがとう』
レオはぺこりと頭を下げた。
『僕の代わりに君は死んでしまった。だから、僕は君の魂を救いこの世界に連れてきて、身体を与えたんだ』
私は驚いて、レオの前に座り込んだ。
「私こそ、お礼を言わせて。猫神さま、助けてくれてありがとう」
手を差し出すと、レオはごろごろと喉を鳴らしながら頭をこすりつけてきた。
『猫はしてもらったことは忘れない。この世界に連れてきたけれど、ジュリアは好きに生きて欲しい。選択肢を与えるために、王子を噛んだんだ。このまま王太子妃にならないで、この地でひっそり暮らしたいならそれでもいいよ。どうしたい?』
シャンデリアからレオが降ってきたときを思い出した。
潮風でなびく髪を抑える。私は一度目を閉じて考えたあと、レオンを見た。
「決める前に、殿下と、お話しがしたいです」
レオンは真剣な顔で頷いた。
「俺も、ジュリアと話がしたい」
レオは『わかった』と言うと、たくさんの猫を引き連れて走り去って行った。ローリヤはユリアを促し、二人も下がった。
レオン殿下は私に「少し待っていて」というと、砂浜で待機していたメイソンの元へ向かった。彼から馬の手綱を受け取り、戻ってきた。
馬の鞍に結びつけている花束を手に持つと、砂浜に片膝をついて跪いた。
「ジュリア。これを」
花束は、オレンジ色のガーベラだった。
「ジュリアオレンジの意味は輝く太陽。君は、俺の希望です」
胸が熱くなった。
花束は毎年、誕生日にもらっていたけれど、いつも無言で渡されていた。
花言葉、知っていたのね。
ガーベラは花の色によって前進や、思いやりなど意味が変わる。どれも前向きなものばかりで好きだった。
「ガーベラは、俺の一番好きな花だよ。ジュリア」
私は差し出された花束をそっと受け取った。
「ジュリア、馬に乗って。行こう」
「行こうって。どこへ?」
「君が一度は行ってみたいと言っていた場所だ」
レオンは猫の島を指差していた。
「潮がさっきより引いている。今なら渡れそうだ。話はあとにして、先に島の猫を見に行こう」
小さいころ、猫島について知ったとき、興奮して彼に話したことがあったのを思いだした。
猫島についてはその一度きりだったのに、覚えてくれてたんだ。
「猫、見に行きたい」
「じゃあ早く乗って」
私とレオンは馬に乗ると、砂浜を駆け、島へと渡った。
猫島には、住民より十倍多い数の猫がいた。屋根の上や、草むらと、みんな思い思いの場所でのんびりと寝ている。
私たちが近づくと、しっぽを立てて近寄ってきてくれた。レオンは残っていたマタタビを細かく折ると、猫たちに与えた。集まった猫を座って眺める。
「かわいい。みんな、やさしい顔をしてる。ここでのびのびと暮らしているのね。レオンさまあそこ見て、仔猫が固まって寝てる!」
話しかけながらレオンを見た。彼は猫ではなく、私を見ていた。目が合うとにこりと微笑まれた。
「うん。かわいいね」
ぼっと顔が熱くなった。思わず立ち上がり、顔を逸らす。もらった花束に視線を向け、飾られたリボンの先に結びつけられている物を見つめたあと、振り返った。
「それがよくわからないの。ゲーム全ルート、全猫種攻略、しかもハッピーエンド千回目を貫徹で達成した朝、制服に着替えて部屋を出たらこの世界だったの」
『それが聖女になる本来の条件だからね』
レオンは私に向き直ると続けた。
『僕、君たちがいた世界が好きなんだ。だからよく遊びに行ってたんだけど、トラックに轢かれそうになったところを、ジュリアが助けてくれたんだ』
「トラック? もしかしてレオは、私が助けた猫さんだったの?」
前世で最後に見た猫は確か、金色の猫だった。
『うん。助けてくれて本当にありがとう』
レオはぺこりと頭を下げた。
『僕の代わりに君は死んでしまった。だから、僕は君の魂を救いこの世界に連れてきて、身体を与えたんだ』
私は驚いて、レオの前に座り込んだ。
「私こそ、お礼を言わせて。猫神さま、助けてくれてありがとう」
手を差し出すと、レオはごろごろと喉を鳴らしながら頭をこすりつけてきた。
『猫はしてもらったことは忘れない。この世界に連れてきたけれど、ジュリアは好きに生きて欲しい。選択肢を与えるために、王子を噛んだんだ。このまま王太子妃にならないで、この地でひっそり暮らしたいならそれでもいいよ。どうしたい?』
シャンデリアからレオが降ってきたときを思い出した。
潮風でなびく髪を抑える。私は一度目を閉じて考えたあと、レオンを見た。
「決める前に、殿下と、お話しがしたいです」
レオンは真剣な顔で頷いた。
「俺も、ジュリアと話がしたい」
レオは『わかった』と言うと、たくさんの猫を引き連れて走り去って行った。ローリヤはユリアを促し、二人も下がった。
レオン殿下は私に「少し待っていて」というと、砂浜で待機していたメイソンの元へ向かった。彼から馬の手綱を受け取り、戻ってきた。
馬の鞍に結びつけている花束を手に持つと、砂浜に片膝をついて跪いた。
「ジュリア。これを」
花束は、オレンジ色のガーベラだった。
「ジュリアオレンジの意味は輝く太陽。君は、俺の希望です」
胸が熱くなった。
花束は毎年、誕生日にもらっていたけれど、いつも無言で渡されていた。
花言葉、知っていたのね。
ガーベラは花の色によって前進や、思いやりなど意味が変わる。どれも前向きなものばかりで好きだった。
「ガーベラは、俺の一番好きな花だよ。ジュリア」
私は差し出された花束をそっと受け取った。
「ジュリア、馬に乗って。行こう」
「行こうって。どこへ?」
「君が一度は行ってみたいと言っていた場所だ」
レオンは猫の島を指差していた。
「潮がさっきより引いている。今なら渡れそうだ。話はあとにして、先に島の猫を見に行こう」
小さいころ、猫島について知ったとき、興奮して彼に話したことがあったのを思いだした。
猫島についてはその一度きりだったのに、覚えてくれてたんだ。
「猫、見に行きたい」
「じゃあ早く乗って」
私とレオンは馬に乗ると、砂浜を駆け、島へと渡った。
猫島には、住民より十倍多い数の猫がいた。屋根の上や、草むらと、みんな思い思いの場所でのんびりと寝ている。
私たちが近づくと、しっぽを立てて近寄ってきてくれた。レオンは残っていたマタタビを細かく折ると、猫たちに与えた。集まった猫を座って眺める。
「かわいい。みんな、やさしい顔をしてる。ここでのびのびと暮らしているのね。レオンさまあそこ見て、仔猫が固まって寝てる!」
話しかけながらレオンを見た。彼は猫ではなく、私を見ていた。目が合うとにこりと微笑まれた。
「うん。かわいいね」
ぼっと顔が熱くなった。思わず立ち上がり、顔を逸らす。もらった花束に視線を向け、飾られたリボンの先に結びつけられている物を見つめたあと、振り返った。