婚約破棄?喜んで!~溺愛王子のお妃なんてお断り。私は猫と旅に出ます~
 私は、彼の婚約者でありながら、レオンと結ばれる未来をちゃんと考えたことがなかった。
 レオンは、何も望まないと言ってくれたけれど、私はお飾りの王太子妃にはなりたくない。
 困っている人たちを助けたいし、彼を支えたい。

 私は一度深呼吸をして覚悟を決めると、彼の手のひらに、指輪を置いた。
 え。と驚いている彼と目を合せる。

「花束のリボンに通して結んでいたの、レオンさまですよね?」
 私は微笑むと、手を差し出した。

「指輪、外してごめんなさい。レオンさまの手でもう一度、嵌めてもらっても良いですか?」
 レオンは固まり、しばらくまばたきを繰り返した。
「いいのか?」
「はい。殿下が望むなら」
「本当に?」とレオンは信じない。私は困ってしまい、眉尻を下げた。

「私は自分の生き方は自分で決めます。しかたなく、戻るんじゃありません。殿下の考えと気持ちも尊重したいんです。この国を良くしようとするレオンさまのお手伝いを、私にもさせてください」
 レオンの眼差しが真剣なものに変わった。ゆっくり頷くと、私の手をそっと掴んだ。

 日はすっかり暮れてしまい、空には満月が浮かんでいた。
「そろそろ戻ろう」とレオンに言われ、手を繋いだまま振り返る。
「わ! びっくりした」
 じっと、こちらを見ている光る猫の目がたくさんあった。

「レオと、白猫さん。迎えに来てくれたの?」
 猫の集団の中に、金色に輝くレオがいた。隣にいた白猫はにゃーと鳴いた。私とレオンは二匹の前にしゃがみ込んだ。

「レ……猫神さま。私、決めました。レオン殿下の王太子妃になります。それで、お願いがあります。私は蝗害を止めたい。力を貸してくれませんか?」
 レオはしっぽをふわりと振った。
『良いよ。君は聖女だからね。ジュリアの願いを叶えてあげよう』
「え。私、……聖女なの?」
 驚いてレオン殿下を見ると彼も目を見開いていた。
「何だ。二人とも気づいていなかったの? まあ、いいや。願いは蝗害を止めるだね。みんなで蝗虫を食べるよ』
「ありがとう」
 私はレオに向かって頭を下げた。

「でもね、国内は広いし、虫は猫より多い。だから、ここの猫島の猫さんたちにも協力をお願いしたいの」   
 レオは瞳孔を大きくさせて固まった。
『僕のテリトリーに他の猫を呼び込むの?』 
 レオを離すと私は顔の前で手を合せてお願いした。
「猫さんが縄張り大事なのはわかってる。でも、猫の手は多いほうがいいと思うの」
 レオは『猫の手ねえ』と自分の肉球を見た。
『わかった。ジュリアの願いだもの、この島の猫ボスと話してみるよ』
「ありがとう、猫神さま」
 レオンがお礼を言い、続いて私もありがとうと伝え、レオを抱き上げた。
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