もう唄わないで

みんなの歌声が揃った。

誰も歌詞を間違えてはいない。



「合ってるね」
と、勇気くんが言う。



「ジャンケンで負けた人が【鬼の子】だよな?」



仲谷くんもそわそわしだした。






その時。

璃花子ちゃんのスマートフォンがブツッと嫌な音を立てた。

明かりが消える。



「あれ?充電は満タンにしたのに!?」



真っ暗な教室内で。

そばにいる子が誰なのかもわからない。



「早くジャンケンして、【鬼の子】を決めようぜ」



誰かの焦る声が聞こえる。

その声が誰の声なのか、私にはわからなかった。

それくらいの緊張と恐怖で、冷静な気持ちじゃなかった。



「私が、【鬼の子】をする」



誰かがそう言った。



「え?誰?」
と、また誰かが言う。



「誰でもいいよ、早く終わらせよう」

「早く唄って」



「わ、私、帰りたい」
と、私は呟いた。



怖くて、つい本音がポロリと口から出てしまった。

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