もう唄わないで
「大丈夫だよっ!」
と、楽しそうな声が返ってくる。
そのことで、この声は璃花子ちゃんなんだ、とわかった。
「もう、響ちゃんは怖がりなんだから。大丈夫だよー!でも、一度遊んだら帰ろっか。真っ暗だからねー」
璃花子ちゃんの明るい声に、私はなんとなく救われた。
「早く唄ってよ」
私達は話すことをやめて、【うるおい鬼の歌】を唄う。
唄いながら、教室内をそろそろと逃げる。
暗闇だから、時々誰かとぶつかったりしちゃうけれど、決して【鬼の子】につかまえられないように。
その時。
私の背中にトンッと優しい感触があった。
暗闇で。
誰なのか見えたりしないけれど。
私には、わかった。
勇気くんだ。
何故だかわからないけれど、確信があった。
少しだけ。
心がふわりと浮かぶ。
勇気くんの優しさに。
私はいつも助けられていて。
恋心を抱いていた。