もう唄わないで

「……ごめん」



小声で囁いた声が、やっぱり勇気くんだった。



私も「大丈夫」と、小さな声で返した。



自分の息から、ぶどうの飴玉の甘い匂い。






パシッ!






「!?」



急に腕に痛みが走る。

【鬼の子】につかまえられているんだ、とわかるまで、一拍遅れたと思う。




「……見つけた」



【鬼の子】が言った。

つかまえられた腕が痛い。

細い指先が腕に食い込むみたい。



(すごい力……っ!)



そして思った。



(あれ?)



私は頭の中が混乱してくる。



(この声、誰の声だっけ?)



「痛い……」



私は腕を引っ込めようとしたけれど、それは叶わなかった。

ひんやりとした【鬼の子】の指先の力は、強まる。




ぼんやりと。

暗闇から、近づいて来た。

【鬼の子】の顔。



「響ちゃんだ」



目隠しをしている【鬼の子】は、ニイッと口角を高く持ち上げる。




私の背筋に冷たいものが落ちて、全身の毛が逆立つほどゾッとした。

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