もう唄わないで
「離せっ!」
と、もがく勇気くん。
「ご褒美を貰っていくんだ!当てたご褒美っ!」
【鬼の子】はそう言って立ち上がった。
その姿は、私達とそんなに変わらない女の子だった。
ツインテールの髪の毛がボサボサで、春なのに半袖のTシャツにショートパンツを履いている。
「離せって!離して!!」
そう叫ぶ勇気くんをがしっと抱えて。
【鬼の子】は暗闇のほうへ。
ビュッ!!と、走り出した。
「待てっ!!!」
岡本くんが追いかけても。
【鬼の子】の足が速くて、追いつかない。
「助けてっ!!助けてぇっ!!」
勇気くんの声が遠ざかっていく。
私は。
恐怖に体を震わせて。
ただ、教室にへたり込んでいた。
窓の外には、月が出ている。
あの夜から。
勇気くんは、姿を消した。
どんなに待っても。
帰って来ない。