もう唄わないで
勇気くんのお母さんは、安心したようにニコッと笑う。
「……響ちゃん、お姉さんになったわね」
「え?」
「ほら、勇気とよく遊んでくれていたでしょう?あの頃はまだ小学生だったから。……そうよね、四年経つんだものね。大人になるわよね」
勇気くんのお母さんが少し涙目になった。
そのことに自分で気づいたのか、
「ごめんね、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
と言って、去って行った。
(そっか、そうだよね)
勇気くんは、ずっと帰っていない。
私達の中では今でも。
勇気くんは、小学四年生のままなんだよね……。
本当なら中学二年生になっているはずなのに。
私は去って行く勇気くんのお母さんの後ろ姿を見つめて。
ごめんなさい。
……そう、心の中で囁いた。
四年B組の教室に入る。
その瞬間、教室内に居たかつてのクラスメート達の視線がグッとこちらに集中して、私は怖気づきそうになる。