もう唄わないで

勇気くんのお母さんは、安心したようにニコッと笑う。



「……響ちゃん、お姉さんになったわね」

「え?」

「ほら、勇気とよく遊んでくれていたでしょう?あの頃はまだ小学生だったから。……そうよね、四年経つんだものね。大人になるわよね」



勇気くんのお母さんが少し涙目になった。

そのことに自分で気づいたのか、
「ごめんね、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
と言って、去って行った。



(そっか、そうだよね)



勇気くんは、ずっと帰っていない。

私達の中では今でも。

勇気くんは、小学四年生のままなんだよね……。



本当なら中学二年生になっているはずなのに。




私は去って行く勇気くんのお母さんの後ろ姿を見つめて。

ごめんなさい。

……そう、心の中で囁いた。




四年B組の教室に入る。

その瞬間、教室内に居たかつてのクラスメート達の視線がグッとこちらに集中して、私は怖気づきそうになる。

< 29 / 99 >

この作品をシェア

pagetop