もう唄わないで
「仲谷くん、久しぶり」
声をかけると、仲谷くんは私をチラッと見て。
「何だ、帰って来なくても良かったのに」
と、呟いた。
「そんなこと言うなよ、仲谷。お前、最低だな」
「あ……、いいよ、岡本くん」
そう言いつつ、目の前でこんなに嫌そうな表情をされると、さすがに傷つく。
「もぅ、またケンカしてんの?」
教室に入って来た子が、澄んだ声で言った。
みんながまた、一斉にその子を見る。
「璃花子ちゃん」
大人っぽくなって、美人に磨きがかかった璃花子ちゃんが、私のそばまでやって来る。
「響ちゃん、来てくれたんだ?」
「うん。電話では一方的に切って、ごめん」
「いいよ、こっちもごめんね」
璃花子ちゃんは私に、
「久しぶり」
と、笑顔をみせてくれた。
「仲谷くんも、岡本くんも、今日くらいはケンカしないでよね」
と璃花子ちゃんが釘を刺すと、二人ともそろって、
「別に」
と、素っ気なく返事をした。