もう唄わないで
「それに、それにね……」
と、璃花子ちゃんの声はまだ震えている。
「私はあの時……、響ちゃんの名前を、呼んじゃっちゃったの」
「え?」
と、岡本くん。
私も、よくわからない。
璃花子ちゃんが何を言いたいのか。
「わからない?【うるおい鬼】の【鬼の子】が誰なのかを、私達は知らなかった。聞いたことがない声だったでしょう?でもそれは、【鬼の子】も同じなんだよ」
璃花子ちゃんは、私達をまた順番に見つめる。
「私達のことを知らないのは、【鬼の子】も一緒なの。だから、名前も知られていない。【逃げる子】の私達の名前を言い当てられるはずがなかったの」
「あ、そっか……!」
と、岡本くんが両手を軽く合わせた。
「でも、私が響ちゃんの名前を呼んでしまった」
璃花子ちゃんの声に涙が混じる。
私は、混乱したままの頭で。
遠いあの夜のことを思い出そうとした。