もう唄わないで
私はうつむいたまま、頷く。
「……勇気くんは、まだ帰って来ない。連れて行かれたままなんだから、今でも怖い思いをしてるんだよ」
そう言った岡本くんは、どこか悔しそうな声だった。
(あの夜、岡本くんだけだったもんね?勇気くんのことを助けようとして、行動したのは)
そう思うと。
私は、あの夜。
何も出来なかった自分を思い出した。
教室の床に、へたり込んでいただけ。
勇気くんは、私を助けてくれたのに。
最後まで【鬼の子】と戦ってくれていたのに。
「……助けなくちゃ」
私の呟きが、妙に空間に響いた気がした。
でも。
怖気づきそうでも。
言わなくちゃ、と思った。
「今度は私が、勇気くんのことを助けたい」
最初に嫌な顔をしたのは、仲谷くんだった。
「……もう、オレ嫌だよ。関わりたくないんだよ」