もう唄わないで
「……昔って、どのくらい?」
『だいたい三十年くらい前、かな?記事によるとね、家族の人と早めの夕食を摂ったあと、お友達と会うって言って、傘を持って出かけた女の子を、家族が見たのが最後なんだって』
「夕食のあとってことは、夜だよね?」
『うん。しかも傘を持って出かけたってことは、雨が降ってたってことだよ。月が無い時ってこと』
背筋から冷たいものを感じる。
(……遊んだんだ)
と、思った。
私達と同じように、その子も。
【うるおい鬼】をして、遊んだんだ。
『でも、三十年前に小学生だった知り合いなんていないから、確かめようがないんだ』
と、璃花子ちゃんは言った。
『本当に【うるおい鬼】をして、行方不明になったのかどうか、確証が持てないんだよ』
私は少し考えて、
「ねぇ、記事には奈保ちゃんの年齢って載ってた?」
と、尋ねた。
『うん。小学六年生だって』