もう唄わないで
「ねぇ、ちょっと思ったんだけど……」
私は、ふと思い当たった。
それは、恐ろしくて。
考えたくもなかったこと。
ずっと、フタをするように。
忘れようと思っていたこと。
「私、あの夜、【鬼の子】に言い当てられた……」
璃花子ちゃんは、
「うん」
と、慎重に頷いた。
「ねぇ、今の【鬼の子】って、誰だと思う?」
私の問いかけに璃花子ちゃんの手は、どんどん冷たくなった。
駅前でバスをおりた。
家まで送る、と心配そうに璃花子ちゃんは言ってくれたけれど、
「平気だよ、璃花子ちゃんも気をつけて帰ってね」
と、私は強がった。
駅前で別れて。
暗い視界に手こずりながら、私はトボトボと歩く。
ヒタッヒタッヒタッ。
(何の音?)
急に風が冷たく感じる。
嫌な予感がして。
私は、怖くて。
振り向く勇気なんかない。