もう唄わないで
(……勇気くん!!)
名前を呼びたい。
勇気くん!って声をかけたら。
勇気くんは帰って来てくれる気がして。
だけど。
のどにグッと力をこめて、我慢した。
(今、【鬼の子】が私なら)
私は前を向いて、足を速めた。
(勇気くんの名前を呼んじゃ、ダメなんだ!)
名前を言い当ててはいけない。
【差し出し】たご褒美である勇気くんが、【逃げる子】とカウントされるのか、私にはわからない。
でも、もしそうだったら。
私と交代で、今度は勇気くんが【鬼の子】になってしまう。
(言い当て返すんだ)
チャンスは一度しかない。
(勇気くんを取り戻すんだ)
その時。
とっても小さな声だったけれど。
私には聞こえた。
「……もう、唄わないで」
「!?」
男の子の声。
(勇気くんの声だ!)