もう唄わないで
「もう唄わないで」
勇気くんが、言っている。
久しぶりに聞く、勇気くんの声。
懐かしい初恋の人の声。
ごめんね。
そう思った。
怖いよね?
帰りたいよね?
私のせいで。
つらい思いをさせて、ごめんね。
「もう唄わないで」
小さな声で、勇気くんは繰り返す。
「?」
何度も呟くその言葉に。
何か意味があるのかな。
見えにくい視界に。
スーパーの明かりが見えた。
人がたくさんいる。
お店が並んでいる通りに出て、道も明るくなる。
私の後ろのほうで、足音が聞こえなくなる。
「ずるい……ずるいよ……」
と呟きながら、あの子は立ち止まっている。
「返してもらうから」
と、私はあの子に言った。
「返してもらう。……何もかも、全部」
勇気くんも。
日常も。
何から何まで、全部。