もう唄わないで

「その【鬼の子】は本物の鬼でね、娘の名前を言い当てた。娘は【鬼の子】に自分の身分を【差し出し】て、【鬼の子】と交代した。その時から娘は行方がわからなくなって、結果的に縁談を逃れたらしいよ」

「……」

「それが、月が出ていない夜だったんだって。それ以来、月の無い時のその場所には【うるおい鬼】が……、本物の鬼が、出るんだって噂が広まったらしいよ」



全員が黙ったままだった。

誰かが「ごくん」と、喉を鳴らす音が聞こえる。



「ねぇ、やらない?」
と、璃花子ちゃんは静かに言った。



「【うるおい鬼】、やってみない?旧校舎で。月の無い時に……」



璃花子ちゃんの目が輝いている。



私は怖くて、
「でも旧校舎に入っちゃいけないんだよ」
と、否定的なことを言ってみる。



でも、そんなのは無駄な抵抗で。



仲谷くんが、
「いいじゃん。やろうよ、【うるおい鬼】!肝試しみたいで面白いじゃん」
と、いたずらっ子の表情で笑う。



岡本くんも頷く。



璃花子ちゃんは満足そうに、
「肝試し、いいじゃん!まだ春だけどさ。春に肝試しっていうのも、なかなか楽しそうだよね」
と、ニコニコしている。

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