もう唄わないで

戻りたいもんね?

【逃げる子】に。

そしたら帰れるんだもん。




あの子は、笠井 奈保ちゃんなのかな。

確信が持てない。

あの夜の【鬼の子】であることは、間違いないけれど。



名前を言い当てなくちゃ。

確実に。

一度で。



あの子が、笠井 奈保ちゃんである確かな証拠が欲しい。



(でも、言い当てたら)



私は、ごくんと生唾を飲んだ。



(奈保ちゃんは、また【鬼の子】として生きることになる。この日常に戻ることなく……)





「あぁ、どうしよう」



堂々巡りな悩みを抱えて。

ため息がこぼれる。












夜。

明かりをつけたまま。

私はベッドに入っていた。



夢の中で、あの子が追いかけて来る。



私はひたすら謝りつつ、逃げている。



ごめんね、ごめんねって。



すると、あの子は言った。



『忘れちゃいけない……、21113』

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