もう唄わないで
だって、つかまったら。
また暗闇に戻らなくちゃならないもんね?
帰れないもんね?
「……見つけた」
それでも、私は言った。
ひどいよね?
本物の鬼は、きっと私だ。
「奈保ちゃんだ!!」
腕はジタバタするのをやめた。
ひんやりと。
冷たい腕は、静かになる。
「笠井 奈保ちゃんだ!!」
私は宣言するように、大きな声で言った。
「……当たり」
奈保ちゃんは言った。
「返してあげる。ご褒美」
私は目隠しを取った。
視界がハッキリとしている。
暗闇だけど。
さっきとはまるで違う。
光を、確かに感じることが出来る。
そう思った。
奈保ちゃんの顔が見える。
小学校六年生の。
あどけない女の子の顔。
「返してあげるよ。ご褒美。……おいでよ」
と、背中に声をかけた奈保ちゃん。
どこからか、足音が近づいて来る。