仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?
その時、大和が壊れた人形の様に笑い出した。
「くくくっ……あはははは!何だこれは?何の茶番だ?美月これはお前が仕組んだのか?復讐のつもりか?」
私は大和の様子に恐怖し、ひたすら首を左右に振った。
実際私は何も知らなかったし、復讐など考えていなかったのだから。
「あはは……俺はお終いだな。智咲、俺と一緒に来るか?」
そう言って大和が自分の妻では無く、智咲の前に右手を差し出したが、それを見た智咲も首を左右に振った。智咲からの拒絶に大和の体がブルブルと震え出す。
「はあ?お前の計画だろうが!」
大和が近くにあったテーブルの上にある食器やグラスを払いのけると、それらが床に落ちて音を立てる。それを見ていた女性陣から悲鳴が上がった。そんな悲鳴に煽られるように大和が笑い始める。
「あはははは!姉を貶めるために不倫をしろと言ったのは君だろ智咲。君の言うことなら何でも聞いてやっただろ。君のため、全ては君のため」
「あなた……どうしてしまったの?」
大和の奥さんが大和の腕に触れようとしたその時、大和が自分の妻の手を払いのけた。
「触るな!もう、お前の顔を見るのも嫌なんだよ。家に帰るたびに愚痴を言われ、散財ばかり。俺には智咲しかいない。俺の天使……」
今まで見せていた柔らかい表情は鳴りを潜め、凶器に満ちた大和の表情に皆の顔が青ざめていく。
今この人は何をしでかすか分からない。
危険すぎる。
大和の様子に恐怖した人々が、少しずつ後退していく。
智咲もまた、ガタガタと震えながら大和と距離を取ろうとしていたが、大和は智咲が一歩下がるたびに一歩、一歩と近づいて行く。
「智咲……智咲……俺の可愛い智咲、こっちにおいで」
大和の手が智咲に伸びようとしたところで、ホテルの警備員達が大和を取り押さえた。大和は警備員に取り押さえられながらも、智咲に手を伸ばし懇願している。智咲、智咲と何度もその名前を呼び、凶器に満ちた目で訴える。君しかいないのだと……。
智咲はそれを見ながら床にへたり込み涙を流しながら、首を左右に振り続けていた。そんな娘を守る様に両親が駆け寄り抱きしめた。
大和の奥さんは取り押さえられる夫を見つめながら「何で……どうして……?」と繰り返し、呆然と立ち尽くしていた。