仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?
涼からシャンパングラスを手渡され、シャンデリアの光に反射した美しい琥珀色のグラスを眺める。……が、美月の心が躍ることは無かった。
「ほら、飲んでみて」
涼が営業スマイルでシャンパンを勧めてくる。美月はゆっくりとシャンパングラスを傾け口に含むが、何の味もしなかった。
「おいしい?」
そう問いかけられ首を傾げる涼に、美月は何も答えられなかった。
「…………」
「口に合わなかったかな?」
美月は下げていた視線を更に下げた。
「すみません……味がしなくて……」
「そう……」
美月は味のしないシャンパンを口に運んでいく。
「ゆっくり飲んだ方が良い。空腹でしょう?」
「大丈夫です」
そう言って、美月はシャンパンを煽|《あお》った。
嫌なこと全てを忘れるように……。
そして、美月の記憶はそこでプツリと途切れたのだった。