仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?
そんな中、涼が美月に視線を戻した。
「ところで美月はどうしてここに?俺に会いに来てくれたの?」
更咲達に向ける表情とは違う、柔らかく甘い笑みを美月に見せる。するとそれを見ていた女性客達から、キャーっと悲鳴が上がった。その笑みに美月の頬が熱くなる。
「ちっ……違うわよ。たまたま誘われて入ったお店が、涼の働いているお店だったの」
「なんだ、そっか残念。でも、ここにいると悪い男どもに捕まっちゃうから、一緒に帰ろう」
そう言って涼がマナトを睨みつけると、マナトがサッと視線を逸らしながら隠れた。
涼は私の手を取りソファーから立たせると、店の出口へと向かって歩き出した。
「えっ……でも、涼仕事は?」
「今日は休みだから大丈夫。たまたまここに寄っただけ」
話しながら外に出ると、後ろから息を切らせながら更咲が追いかけてきた。
「あの、涼さんって言うんですか?私更咲です。あの、私……岡本さんより美人だし、涼さんと釣り合うと思うんです。絶対に涼さんを幸せにするので私と付き合って……」
そこまでまくし立てるように話したいた更咲の口が、開いたまま動かなくなった。その理由は目の前に立っている涼の瞳が、全く笑っていなかったからだった。冷ややかで冷たいその瞳に、更咲の体から血の気が引いていく。
何故か三人の様子を窺っていた店内にいた人々の体からも血の気が引いていた。
絶対零度の微笑み……。
更咲もやっと気づいたらしい。
店内の人々が『気づくの遅えよ』と更咲に向かって、心の中で突っ込みを入れた時だった。