XYZ
「…私はそんなこと思っていないわ」

私はまた箸を動かす。

スビン

彼の名を聞くだけで、ご飯の味がまるでしなくなる。

大手企業の社長の次男。
お父様が贔屓にしている会社の社長の息子だ。


私の未来の"旦那"だ。


双葉さんは不機嫌そうにする私を宥めるように話す。

「お父様は、ニカさんの将来を思って決めてくださったのですよ。…楽しみに待ちましょうね。」

自分の会社のため。
私が男だったら、こんな状況にはなっていなかったんでしょうけど。

食事を進める手を止めて、私は自室に戻った。



こんなに食事が味がしないなんて、久しぶりだった。
3月までは、ナナミに出会うまでは美味しくなんて感じなかった。

"普通"を知ってしまった今、どうすればお父様から逃れられるのか、時々考えてしまう。

眠って、朝起きたら、どこか別の家の人になっていないだろうか。
そんな夢物語が起きたら、どれだけ幸せなんだろう。

明日に期待はせず、眠りについた。






『何で、男じゃないんだ!!』
『生まれてくる子の性別なんて、選べるわけないじゃないの!!』

お父様とお母様の大きな声が聞こえる…

『もう産めないなんてな、お前は何のためにこの家にいるんだ!!』
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