XYZ
『ナナミと一緒で私も嬉しい』

呼吸が自然と元に戻っていく。
こんなに心が落ち着くなんて、ナナミは何かすごい力を持っている。
人を幸せにする才能があるんだ、きっと。

そう物思いにふけていると、スマホがまた光った。
少し振動している。


「もし、もし…」

『ニカどうしたの?夜ふかしはダメだよ』

ナナミからの着信だった。
いつもと変わらぬ声、トーン。
声を聞くだけで安心してしまう。

「ナナミも、寝なければいけないんじゃないの?」
『私はいいの!…こんな時間にLIN○くるなんて、何かあったの?』


思わず弱音を吐いてしまいそうになる。
ナナミなら何か受け止めてくれるような気がして。
でも、

私は彼女を"裏切らない"と約束した。

私はいずれ、あなたを裏切る。
だからこそ今は、あなたに好きでいてもらえる自分でありたい。


「少し、寝付けなかっただけなの」


こうやって嘘を積み重ねていく。
小さな嘘を少しずつ。

『そっかー、じゃあ少し話そ!』
「…うん。」

きっと兄弟達を起こさないように、だろう。
囁くような小さな声が、スマホから聞こえる。
不覚にもドキドキしてしまう。

『私、ニカについてもっと知りたいな。』
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