XYZ
「このまま2人でいられたら、幸せなんだろうな」
私の言葉に、ナナミが走るのをやめた。
家柄なんて全て突破らって、婚約なんて辞めて、私も普通の子達みたいに、普通に生きたい。
「何言ってるの、ニカ」
ナナミの少し震えるような声が、静かな空間にそっと響く。
ナナミは私の方を振り返る。
「ずっと隣に、いるじゃん。」
「ナナミ…」
優しくて、子供みたいな笑顔。
その笑顔がずっと隣にいて欲しいと思った。
「ニカが裏切らないって約束してくれた。だから、私もニカのこと、絶対うらぎらないよ…」
朝日に照らされたナナミの笑顔は、まるで映画のワンシーンを切り取ったみたいに美しくて、それでいて儚さを感じられる表情だった。
2人で始発の電車に乗りこんだ。
初めて切符を買った。
電車は車両がいくつも繋がっていて、いつかテレビで見たものそのものだった。
心地よく揺れる電車に身を委ねながら、窓から見える次々と移り変わる景色を見ていた。
(私はこのままでいいのかな…)
自分のあまりの無知さに劣等感を覚えた。
スマホに1件の着信。
表示されたのは『お父様』の文字。
私はそっとスマホの電源を切った。
(早く起こして、ごめんね…)
隣で眠る愛しい人を、自分の方に少し引き寄せた。