XYZ

「このまま2人でいられたら、幸せなんだろうな」

私の言葉に、ナナミが走るのをやめた。

家柄なんて全て突破らって、婚約なんて辞めて、私も普通の子達みたいに、普通に生きたい。


「何言ってるの、ニカ」

ナナミの少し震えるような声が、静かな空間にそっと響く。
ナナミは私の方を振り返る。


「ずっと隣に、いるじゃん。」
「ナナミ…」

優しくて、子供みたいな笑顔。
その笑顔がずっと隣にいて欲しいと思った。


「ニカが裏切らないって約束してくれた。だから、私もニカのこと、絶対うらぎらないよ…」

朝日に照らされたナナミの笑顔は、まるで映画のワンシーンを切り取ったみたいに美しくて、それでいて儚さを感じられる表情だった。


2人で始発の電車に乗りこんだ。
初めて切符を買った。
電車は車両がいくつも繋がっていて、いつかテレビで見たものそのものだった。

心地よく揺れる電車に身を委ねながら、窓から見える次々と移り変わる景色を見ていた。


(私はこのままでいいのかな…)


自分のあまりの無知さに劣等感を覚えた。


スマホに1件の着信。
表示されたのは『お父様』の文字。


私はそっとスマホの電源を切った。


(早く起こして、ごめんね…)


隣で眠る愛しい人を、自分の方に少し引き寄せた。




< 50 / 134 >

この作品をシェア

pagetop