モラハラ夫との離婚計画 10年
「もう一件行こう、もう一件」
「すみません、帰って食事を作らないと――」
店を出て、断ろうとしたところでスマートフォンが震えた。ラインのメッセージ、夫から。
『今日はご飯いいや、接待でおそくなる』
「おっ! ご飯いらないってさ」
後ろから覗き見ていた彼が満面の笑みで話しかけてきた。時刻はまだ六時過ぎ、もう少しくらいなら良いか。
「かんぱーい!」
二件目はなぜかもんじゃ焼き、立ち飲みだったから座れるのはありがたい。慣れた手つきでもんじゃ焼きを作っていく。やっぱり綺麗な手。
「で、いつ離婚するの?」
「え?」
あれ、離婚するって言ったっけ? いやいや、絶対に話してない。そこまで酔ってない。
「なーんてね、離婚したら俺にもチャンスがさ、なんてね」
「部長って、酔うとキャラ変わりますね」
「こっちが本性、会社じゃ猫かぶってます。女子社員多いから」
私も女子社員です、派遣だけど。
「こんなところ他の女子社員に見られたら刺されますよ私」
「ハッハッ、何が良いのかね? こんなオッサン」
芸能人と言っても差し支えないルックス、将来のポストが約束された実績、噂によると次男。よく聞くと声まで素敵だ。なるほど、こりゃ争奪戦だ。
「自覚がないところじゃ無いですか?」
「井上さんに言われると心外だなぁ」
「私は自分のことをよーく分かってます」
「へー」
平凡な見た目に付随した平凡な能力、何をやっても特筆することの無い普通の女。既婚、ただし期限付き。
「あ、出てますよ。お気に入りが」
店内の壁に取り付けられた、油まみれのテレビに映るのは缶チューハイを美味しそうに飲んで笑顔がアップになる優香、かわいいけど彼よりも年上? 年上好きなのかな。知らんけど。
「え、どこ?」
「ほら、テレビです」
指をさしたがすでに次のCMに切り替わっていた。
「好きなんですよね、優香?」
「好きだよ、優香」
「え?」
「え?」
話がまったく噛み合わない。
「てゆーか……。あっ、またゆーかって。なんか流れで告白しちゃったよ俺」
「え?」
「ま、いっか」
良くない、良くない。好き? 私の事が? このテレビから飛び出してきたような二枚目が? なんで?
「あー、でもスッキリした。ずっと片想いだったからさ」
勝手にスッキリするな。なんて返していいか分からない、顔赤くなってないかな。
「俺が勝手に好きなだけだから、良いかな?」
「は、はい」
「良かった、迷惑ですとか言われたら来週から会社行けなかったよ」
それから私は頭がぼうっとして、浴びるように酒を飲んだ気がする。彼の綺麗な手を眺めながら。ずっと――。
「すみません、帰って食事を作らないと――」
店を出て、断ろうとしたところでスマートフォンが震えた。ラインのメッセージ、夫から。
『今日はご飯いいや、接待でおそくなる』
「おっ! ご飯いらないってさ」
後ろから覗き見ていた彼が満面の笑みで話しかけてきた。時刻はまだ六時過ぎ、もう少しくらいなら良いか。
「かんぱーい!」
二件目はなぜかもんじゃ焼き、立ち飲みだったから座れるのはありがたい。慣れた手つきでもんじゃ焼きを作っていく。やっぱり綺麗な手。
「で、いつ離婚するの?」
「え?」
あれ、離婚するって言ったっけ? いやいや、絶対に話してない。そこまで酔ってない。
「なーんてね、離婚したら俺にもチャンスがさ、なんてね」
「部長って、酔うとキャラ変わりますね」
「こっちが本性、会社じゃ猫かぶってます。女子社員多いから」
私も女子社員です、派遣だけど。
「こんなところ他の女子社員に見られたら刺されますよ私」
「ハッハッ、何が良いのかね? こんなオッサン」
芸能人と言っても差し支えないルックス、将来のポストが約束された実績、噂によると次男。よく聞くと声まで素敵だ。なるほど、こりゃ争奪戦だ。
「自覚がないところじゃ無いですか?」
「井上さんに言われると心外だなぁ」
「私は自分のことをよーく分かってます」
「へー」
平凡な見た目に付随した平凡な能力、何をやっても特筆することの無い普通の女。既婚、ただし期限付き。
「あ、出てますよ。お気に入りが」
店内の壁に取り付けられた、油まみれのテレビに映るのは缶チューハイを美味しそうに飲んで笑顔がアップになる優香、かわいいけど彼よりも年上? 年上好きなのかな。知らんけど。
「え、どこ?」
「ほら、テレビです」
指をさしたがすでに次のCMに切り替わっていた。
「好きなんですよね、優香?」
「好きだよ、優香」
「え?」
「え?」
話がまったく噛み合わない。
「てゆーか……。あっ、またゆーかって。なんか流れで告白しちゃったよ俺」
「え?」
「ま、いっか」
良くない、良くない。好き? 私の事が? このテレビから飛び出してきたような二枚目が? なんで?
「あー、でもスッキリした。ずっと片想いだったからさ」
勝手にスッキリするな。なんて返していいか分からない、顔赤くなってないかな。
「俺が勝手に好きなだけだから、良いかな?」
「は、はい」
「良かった、迷惑ですとか言われたら来週から会社行けなかったよ」
それから私は頭がぼうっとして、浴びるように酒を飲んだ気がする。彼の綺麗な手を眺めながら。ずっと――。