モラハラ夫との離婚計画 10年

7,計画変更

「大丈夫だよ、一撃当てれば」

 週末、土曜日。ゆうくんに連れられて競艇場に来ていた。「借金とかあるの?」と聞いた私に彼はシレッと「三百万くらい」と答えた。

「よし、こい! そのまま!!」

 この日は珍しく二十万円の大勝。夜はちょっと高めの焼肉屋に連れて行ってくれた。

「なんか元気ない?」

 現実に晒されて、夫への殺意が薄れていくと罪悪感が押し寄せてくる。ゆうくんが本当に私の事を愛しているのが伝わってくるから。

「そうかな……」

「悩みがあるなら話してよ、優香の為ならなんだってするからさ」

 いつまでも隠しておく事は出来ない。だったら少しでも傷が浅いうちに……。

「その、えっと」

 でも告白したらもう会えない。

「言ったら嫌われちゃう……」

「え?」

 だめだ、言えない。今、彼を失うのはあまりにもつらい。もともと持っていなかったのに、手に入れてしまうと失うのが怖い。

「ははっ、ないない」

 ゆうくんは焼肉をひっくり返すトングを振った。

「何年も好きだったんだよ、例え優香が実は男ですって言われても嫌いになんてなれないよ」

 その方がまだマシだ。

「すごい不潔でたまにしかお風呂に入ってなかったら?」

「全然いいよ、俺も入らない」

「本当はめちゃくちゃ性格悪くて人の悪口ばっかり言ってたら?」

「優香に悪口言われる奴が悪いよ」

「実はヤリマンなんだよね、誰とでも寝るの」

「俺だけを見てくれるように頑張る」

「結婚してるの……わたし」

「え?」

 彼の手が止まる、視線が交わる。

「ごめんなさい……」

 私は(せき)を切ったようにすべてを話した。旦那のこと、貯金のこと、十年間は我慢すること。喋り出したら止まらなかった。誰かに聞いて欲しかった。


「殺すなんてダメだよ、優香がそんな奴の為に人生を犠牲にする必要はない」

 ゆうくんは私の話を最後まで聞くと真面目な顔をしてそう言った。

「うん……」

「あと七年?」

「え?」

「離婚まで」

「あ、正確には六年と五ヶ月……」

 ゆうくんはしばらく考えを巡らせるように顎に手を当てる。次に出てきた言葉は私が予想もしないものだった。

「結婚しよう」

 それはとても自然な、既婚者へのプロポーズだった。

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