卒業証書は渡せない
9.手本にならない
それから急いで弘樹の家を出て、なくてはならない手土産は弘樹に持たせる。どうせ弘樹のことだから思いもしないだろうと思って、弘樹が服を選んでいる間に私が買いに行った。もちろん代金は請求した。
ぐるるるるるるるる──きゅるるるううぅぅ……。
私のおなかが鳴きだした。そういえば朝から何も食べてない。
それに、なんで私が弘樹について奈緒んちに……?
「じゃあ私おなかすいたし、帰るね」
そして駅に向かって歩き出したはずなのに、
「何言ってんだよ、おまえも行くんだよ」
「ええっ、なんでっ、聞いてないって! 空腹で倒れたらどーしてくれんのよっ! ちょっとーっ!」
というのも聞いてもらえず、弘樹は私を引っ張ってそのまま歩き続けた。
「ちょっと弘樹っ! 離してっ!」
どうせ離してくれないだろうけど。
この歳になって足掻くのも恥ずかしいから泣く泣くついて行くことにしたけど、弘樹は歩くのが早い。普通の速さじゃついていけない。だめだ、コケル──
「お願い離してっ、ねえっ、おわっ、歩くの早いよっ! ──わっ!」
ずっと弘樹に引っ張られていたせいで既に体は加速していた。弘樹が離してくれたのは嬉しかったけど、その瞬間にちょっとだけコケそうになった。
「もーっ、ばかっ!」
「くっ……ははははは……」
「なによ?」
「おもしれー顔」
その弘樹の言葉にムッとなる。なんでこんな奴に付き合わされてるんだろう。
「だ、誰のせいだと思ってんのよ? あーあ、せっかく奈緒紹介してあげたのに。奈緒も可哀そう! もうこれあげなーい」
と言って、私は弘樹に持たせた良介への手土産を奪い取った。
「あっ、おいっ、やめろっ、俺はどーなるんだよっ!」
「知らなーい」
私は手土産の袋を持って、奈緒の家とは反対方向に走り出した。
「おい、返せ、こらっ、待てよーっ!」
もちろん弘樹の方が足が速いから、私がいくら逃げたってすぐに追いつかれてしまう。でも私は手土産をしっかり持って離さなかった。こんな嫌ーな男を助けることが無駄に思えた。
「時間ないんだよ、お願い、ちょうだい!」
「やーだ」
そしてまた私と弘樹は走り出し、途中で小学生も何度か見かけた。
「ちょっと弘樹っ、小さい子たちの前でみっともないよ!」
「え? あ……」
と弘樹が小学生に気を取られている間に私は逃げる。
「……っと待てよおい! 夕菜!」
別に弘樹を助けたくなくなったんじゃない。むしろ奈緒のことを考えて応援したい。2人には仲良くなっていつまでも一緒にいてもらいたい。奈緒は本当に良い子で、弘樹もそこそこいけるんじゃないかと思う。
なんかね、弘樹をからかって遊ぶのはすごく楽しいから。
「仕方ない、今回は見逃してあげますか」
「あーっ、お前のせいで時間なくなっちまったじゃねーか!」
確かに到着すべき時間まであと2分しかない。
「ふーん。……余裕だね」
だってそこは、もう大島家の門の前だったから。
「おまえ……もしかして実は見かけによらず良い奴?」
「見かけによらずってそれどーゆー意味よ?」
「そのまんまだよ」
そのまんまってなんだ。奈緒を紹介させておいて。見かけによってなかったらその時点で私に絡んでないんじゃないですか弘樹君????
でもそれは思うだけにしておいて、私は何も言わなかった。たまには良いかな……。
「……あれ、言い返さないのか? 待ってたのに」
「毎回毎回やってたらこっちも疲れるからね。それより、奈緒が待ってるよ」
私が大島家のインターホンを押すと、機械の向こうから奈緒の声がした。
ぐるるるるるるるる──きゅるるるううぅぅ……。
私のおなかが鳴きだした。そういえば朝から何も食べてない。
それに、なんで私が弘樹について奈緒んちに……?
「じゃあ私おなかすいたし、帰るね」
そして駅に向かって歩き出したはずなのに、
「何言ってんだよ、おまえも行くんだよ」
「ええっ、なんでっ、聞いてないって! 空腹で倒れたらどーしてくれんのよっ! ちょっとーっ!」
というのも聞いてもらえず、弘樹は私を引っ張ってそのまま歩き続けた。
「ちょっと弘樹っ! 離してっ!」
どうせ離してくれないだろうけど。
この歳になって足掻くのも恥ずかしいから泣く泣くついて行くことにしたけど、弘樹は歩くのが早い。普通の速さじゃついていけない。だめだ、コケル──
「お願い離してっ、ねえっ、おわっ、歩くの早いよっ! ──わっ!」
ずっと弘樹に引っ張られていたせいで既に体は加速していた。弘樹が離してくれたのは嬉しかったけど、その瞬間にちょっとだけコケそうになった。
「もーっ、ばかっ!」
「くっ……ははははは……」
「なによ?」
「おもしれー顔」
その弘樹の言葉にムッとなる。なんでこんな奴に付き合わされてるんだろう。
「だ、誰のせいだと思ってんのよ? あーあ、せっかく奈緒紹介してあげたのに。奈緒も可哀そう! もうこれあげなーい」
と言って、私は弘樹に持たせた良介への手土産を奪い取った。
「あっ、おいっ、やめろっ、俺はどーなるんだよっ!」
「知らなーい」
私は手土産の袋を持って、奈緒の家とは反対方向に走り出した。
「おい、返せ、こらっ、待てよーっ!」
もちろん弘樹の方が足が速いから、私がいくら逃げたってすぐに追いつかれてしまう。でも私は手土産をしっかり持って離さなかった。こんな嫌ーな男を助けることが無駄に思えた。
「時間ないんだよ、お願い、ちょうだい!」
「やーだ」
そしてまた私と弘樹は走り出し、途中で小学生も何度か見かけた。
「ちょっと弘樹っ、小さい子たちの前でみっともないよ!」
「え? あ……」
と弘樹が小学生に気を取られている間に私は逃げる。
「……っと待てよおい! 夕菜!」
別に弘樹を助けたくなくなったんじゃない。むしろ奈緒のことを考えて応援したい。2人には仲良くなっていつまでも一緒にいてもらいたい。奈緒は本当に良い子で、弘樹もそこそこいけるんじゃないかと思う。
なんかね、弘樹をからかって遊ぶのはすごく楽しいから。
「仕方ない、今回は見逃してあげますか」
「あーっ、お前のせいで時間なくなっちまったじゃねーか!」
確かに到着すべき時間まであと2分しかない。
「ふーん。……余裕だね」
だってそこは、もう大島家の門の前だったから。
「おまえ……もしかして実は見かけによらず良い奴?」
「見かけによらずってそれどーゆー意味よ?」
「そのまんまだよ」
そのまんまってなんだ。奈緒を紹介させておいて。見かけによってなかったらその時点で私に絡んでないんじゃないですか弘樹君????
でもそれは思うだけにしておいて、私は何も言わなかった。たまには良いかな……。
「……あれ、言い返さないのか? 待ってたのに」
「毎回毎回やってたらこっちも疲れるからね。それより、奈緒が待ってるよ」
私が大島家のインターホンを押すと、機械の向こうから奈緒の声がした。