卒業証書は渡せない
11.昼休みの出来事
「それでね、今度、遊園地行こう、夕菜も誘おうって言ってたよ。ねぇ、行こうよ」
弘樹が大島家に呼び出されてから数週間後のある昼休み。私はいつも通り、奈緒と一緒にお弁当を食べていた。
大島家からの帰り道、後ろから現れた奈緒に弘樹は驚いていたけれど。奈緒からOKの報告を聞くなり、喜んで奈緒に抱きついていた。私が見てるから、すぐ離れたけど。
それから私はまっすぐ家に帰った。
一方の奈緒と弘樹がどこに行ったかは知らない。『学校の前を通ったら友達に会って冷やかされた』なんて、弘樹は言ってたけど。
「いや……私、邪魔でしょ?」
どこからどう見ても。誰が見ても。
奈緒と弘樹のことは、すぐにクラス中に広まった。
お嬢様の奈緒と、一般人の弘樹が?って。
奈緒の父親が厳しいことが一番最初に噂になって、その噂はいつしか『奈緒はお嬢様』に変わっていた。確かに奈緒は、ある意味でお嬢様だけれど、たぶん違うと思う。家は、周りと比べたら多少は大きいけど。家具も、綺麗だけど。食事も、珍しいものがたまにあるけど。
でも普段の奈緒のお弁当のおかずは、卵焼きにウインナーがあって、サラダがあったり、焼売があったり、昨日の晩御飯のおかずも入っている。そして小さいおにぎりが2つ並んだ横に、プチトマトが入っていたりする。
「えー邪魔になんかならないよー」
奈緒はそう言うけど。奈緒と弘樹が仲良くしてるところに私がいても、邪魔なのは確か。私と奈緒が仲良くしてるときに弘樹がいるのも、邪魔なのだ。
「せっかく一緒に行けると思って楽しみにしてたのになぁ」
空になったお弁当箱を片づけながら、奈緒は肩を落とした。
「そうだ! 夕菜も誰か男の子誘えばいいんだよ!」
「え? 誰を? 私……」
彼氏いません。好きな人もいません。席が近いとか同じグループになった人とは普通に喋るけど、それはただのクラスメイト。
「あっ、ごめん……」
「いーよいーよ! 気にしないで!」
そう言って笑っていたとき、誰かが私を呼んだような気がした。
「──さん、高野さーん」
きょろきょろしている私の前に、ひとりの男の子が現れた。誰だろう、クラスメイト?
「牧原君、どうしたの?」
聞いたのは奈緒。
「奈緒、知り合い?」
「えっ? 夕菜、知らないの?」
どこかで見たような、見てないような。しばらく記憶をたどってみたけど、マキハラくんという知り合いは、いない。
「どっかで会ったっけ?」
そう言うと、牧原くんは「えーっ」と言い、その向こうから「俺の友達」という声がした。
「えっ……弘樹の友達?」
「そうそう。一応クラスメイトなんだけど……。覚えてない? 始業式のころに話したの」
それまで何も思い出せなかったのに、『始業式のころ』という単語にピンときてしまった。
奈緒が倒れて保健室に行っていたとき、廊下で話しかけてきた人だ。私に『弘樹が好きなのか?』と聞いてきた人……そうだ、この顔だ!
「あー……あのときの……」
あまり思い出したい事ではなかった。
「それで……何か用?」
牧原君はちょっと緊張していた。それを見ている弘樹は、ちょっと笑っていた。奈緒とは私は、意味がわからず首をかしげていた。
3人の視点の焦点で、口が開いた。
「高野さん、僕と付き合ってください!」
弘樹が大島家に呼び出されてから数週間後のある昼休み。私はいつも通り、奈緒と一緒にお弁当を食べていた。
大島家からの帰り道、後ろから現れた奈緒に弘樹は驚いていたけれど。奈緒からOKの報告を聞くなり、喜んで奈緒に抱きついていた。私が見てるから、すぐ離れたけど。
それから私はまっすぐ家に帰った。
一方の奈緒と弘樹がどこに行ったかは知らない。『学校の前を通ったら友達に会って冷やかされた』なんて、弘樹は言ってたけど。
「いや……私、邪魔でしょ?」
どこからどう見ても。誰が見ても。
奈緒と弘樹のことは、すぐにクラス中に広まった。
お嬢様の奈緒と、一般人の弘樹が?って。
奈緒の父親が厳しいことが一番最初に噂になって、その噂はいつしか『奈緒はお嬢様』に変わっていた。確かに奈緒は、ある意味でお嬢様だけれど、たぶん違うと思う。家は、周りと比べたら多少は大きいけど。家具も、綺麗だけど。食事も、珍しいものがたまにあるけど。
でも普段の奈緒のお弁当のおかずは、卵焼きにウインナーがあって、サラダがあったり、焼売があったり、昨日の晩御飯のおかずも入っている。そして小さいおにぎりが2つ並んだ横に、プチトマトが入っていたりする。
「えー邪魔になんかならないよー」
奈緒はそう言うけど。奈緒と弘樹が仲良くしてるところに私がいても、邪魔なのは確か。私と奈緒が仲良くしてるときに弘樹がいるのも、邪魔なのだ。
「せっかく一緒に行けると思って楽しみにしてたのになぁ」
空になったお弁当箱を片づけながら、奈緒は肩を落とした。
「そうだ! 夕菜も誰か男の子誘えばいいんだよ!」
「え? 誰を? 私……」
彼氏いません。好きな人もいません。席が近いとか同じグループになった人とは普通に喋るけど、それはただのクラスメイト。
「あっ、ごめん……」
「いーよいーよ! 気にしないで!」
そう言って笑っていたとき、誰かが私を呼んだような気がした。
「──さん、高野さーん」
きょろきょろしている私の前に、ひとりの男の子が現れた。誰だろう、クラスメイト?
「牧原君、どうしたの?」
聞いたのは奈緒。
「奈緒、知り合い?」
「えっ? 夕菜、知らないの?」
どこかで見たような、見てないような。しばらく記憶をたどってみたけど、マキハラくんという知り合いは、いない。
「どっかで会ったっけ?」
そう言うと、牧原くんは「えーっ」と言い、その向こうから「俺の友達」という声がした。
「えっ……弘樹の友達?」
「そうそう。一応クラスメイトなんだけど……。覚えてない? 始業式のころに話したの」
それまで何も思い出せなかったのに、『始業式のころ』という単語にピンときてしまった。
奈緒が倒れて保健室に行っていたとき、廊下で話しかけてきた人だ。私に『弘樹が好きなのか?』と聞いてきた人……そうだ、この顔だ!
「あー……あのときの……」
あまり思い出したい事ではなかった。
「それで……何か用?」
牧原君はちょっと緊張していた。それを見ている弘樹は、ちょっと笑っていた。奈緒とは私は、意味がわからず首をかしげていた。
3人の視点の焦点で、口が開いた。
「高野さん、僕と付き合ってください!」