卒業証書は渡せない
12.電車の吊り広告
現場を見ていたのは3人だけだった、のに。牧原君の元気な声は、クラス中に響いてしまった。
自分たちのグループで話していた人たちも、こっちに注目していた。一部では拍手が起こったり、指笛を鳴らしている人もいる。廊下を歩いている人まで、足を止めて何事かと教室を覗いていた。
「えっ……と……」
私はどうしたらいいのでしょうか。
「えーと……」
キーンコーンカーンコーン──
チャイムが鳴って先生が来たおかげで、私はその空気から抜け出すことができた。牧原君やクラスメイトは私の返事を聞きたそうにしていたけど。あの空気では何も言えませんから。
そんなこんなで全く授業に集中できないまま、5・6時間目は終了した。正確には、2時間連続の体育の予定が雨でグラウンドが使えなかったため、男女ともに自習になった。自習といっても先生はいるし、隣のクラスは授業中なので、私語厳禁。
「クラブ行ってくるね! 帰り気をつけてね!」
奈緒はテニス部に入っていた。奈緒は小柄でかわいいので、スコートも似合っている。まだボール拾いくらいしかさせてもらえないらしいけど、奈緒は中学からテニスを習っていたし、すぐに試合にも出れるはず。
一方の弘樹も、いつのまにかいなくなっていた。彼もきっと、クラブに行ったんだ。2人とも5時にクラブが終わってそれから一緒に帰る、というのは、奈緒に聞いた。2人は本当に仲が良くてうらやましい。
私は用事もないので、さっさと学校を出た。あまり人に会いたくなかったので、駅に向かった。今のところ、私のほかに電車通学しているクラスメイトはまだ見つけていない。
学校の生徒は、何人かいるけれど。
「あいつ派手にやったよなぁ。どうなんのかな」
「さぁ……あの子、ちょっと困ってたけど」
「くっつくんじゃねーの? あいつもブサくはないし」
「真司君ってバスケ部だったっけ?」
その言葉にハッとして、思わずそこから逃げてしまった。
真司君というのは、牧原君のことだ。バスケ部に所属していて中学の時はキャプテンだった、というのは、弘樹に聞いた。
はっきり言うけど、私は彼のことをほとんど知らない。
名前と顔と、強いて言えば、最初の嫌な印象しかない。
そんな人から告白されたって、嬉しくなかった。
(気持ちだけはまぁ……嬉しいけど)
さっき牧原君の話をしていた人たちは、違うクラスの人だと思う。クラスメイトではない。
(あーもー……明日になったら、学年中に広まってんのかなぁ……。嫌だなぁ。はぁ……)
ホームの隅にあるベンチに座って、私はケータイを開いた。奈緒も弘樹も、友達はみんなクラブ中なので、誰からも連絡は来ていない。
絵文字無料で取り放題のサイトにアクセスしてみたけど、ほしい絵文字は特に見つからなかったので、そのままケータイを鞄に入れた。
ちょうど電車もやってきて、一駅なのでドアのところで立っていた。
車内を見渡すと、目に入った吊り広告。
昼休みに奈緒が話していた遊園地の、期間限定入場割引のお知らせだった。4人以上で入った場合、通常より一人あたり20%お得、だって。
(それで私を誘ってたのかぁ……でも、私が行っても3人……4人にならな──、! そうか……)
牧原君への返事は、まだ考えていないけど。男衆の考えていることが、わかったような気がした。
自分たちのグループで話していた人たちも、こっちに注目していた。一部では拍手が起こったり、指笛を鳴らしている人もいる。廊下を歩いている人まで、足を止めて何事かと教室を覗いていた。
「えっ……と……」
私はどうしたらいいのでしょうか。
「えーと……」
キーンコーンカーンコーン──
チャイムが鳴って先生が来たおかげで、私はその空気から抜け出すことができた。牧原君やクラスメイトは私の返事を聞きたそうにしていたけど。あの空気では何も言えませんから。
そんなこんなで全く授業に集中できないまま、5・6時間目は終了した。正確には、2時間連続の体育の予定が雨でグラウンドが使えなかったため、男女ともに自習になった。自習といっても先生はいるし、隣のクラスは授業中なので、私語厳禁。
「クラブ行ってくるね! 帰り気をつけてね!」
奈緒はテニス部に入っていた。奈緒は小柄でかわいいので、スコートも似合っている。まだボール拾いくらいしかさせてもらえないらしいけど、奈緒は中学からテニスを習っていたし、すぐに試合にも出れるはず。
一方の弘樹も、いつのまにかいなくなっていた。彼もきっと、クラブに行ったんだ。2人とも5時にクラブが終わってそれから一緒に帰る、というのは、奈緒に聞いた。2人は本当に仲が良くてうらやましい。
私は用事もないので、さっさと学校を出た。あまり人に会いたくなかったので、駅に向かった。今のところ、私のほかに電車通学しているクラスメイトはまだ見つけていない。
学校の生徒は、何人かいるけれど。
「あいつ派手にやったよなぁ。どうなんのかな」
「さぁ……あの子、ちょっと困ってたけど」
「くっつくんじゃねーの? あいつもブサくはないし」
「真司君ってバスケ部だったっけ?」
その言葉にハッとして、思わずそこから逃げてしまった。
真司君というのは、牧原君のことだ。バスケ部に所属していて中学の時はキャプテンだった、というのは、弘樹に聞いた。
はっきり言うけど、私は彼のことをほとんど知らない。
名前と顔と、強いて言えば、最初の嫌な印象しかない。
そんな人から告白されたって、嬉しくなかった。
(気持ちだけはまぁ……嬉しいけど)
さっき牧原君の話をしていた人たちは、違うクラスの人だと思う。クラスメイトではない。
(あーもー……明日になったら、学年中に広まってんのかなぁ……。嫌だなぁ。はぁ……)
ホームの隅にあるベンチに座って、私はケータイを開いた。奈緒も弘樹も、友達はみんなクラブ中なので、誰からも連絡は来ていない。
絵文字無料で取り放題のサイトにアクセスしてみたけど、ほしい絵文字は特に見つからなかったので、そのままケータイを鞄に入れた。
ちょうど電車もやってきて、一駅なのでドアのところで立っていた。
車内を見渡すと、目に入った吊り広告。
昼休みに奈緒が話していた遊園地の、期間限定入場割引のお知らせだった。4人以上で入った場合、通常より一人あたり20%お得、だって。
(それで私を誘ってたのかぁ……でも、私が行っても3人……4人にならな──、! そうか……)
牧原君への返事は、まだ考えていないけど。男衆の考えていることが、わかったような気がした。