卒業証書は渡せない
14.遊園地にて
夏休みになって、私は奈緒たちと一緒に遊園地に行くことになった。というか、強制的に、連れてこられた。
こないだの昼休み、章人が現れて弘樹を連れてった日。章人は弘樹に遊園地の乗り物のチケットをくれたらしい。自分が行ったときに使う予定だったのが、なんやかんやで要らなくなったとかで……。
「私はいいよー2人で楽しんできたら?」
って言ったのに。本当に私のことはどうでもいいのに。奈緒は私を連れていくといってきかなかったし、弘樹も、来てほしい理由があった。
「うーん……良いけど別に……その代わり本当に、私の気持ちは変わってないからね?」
電車の吊広告にあった、4人以上での入場割引。とは別に、例の彼・牧原君が一緒に遊びたいらしい。私はまだ彼のことをなんとも思ってないし、何も知らない。実際、午前中一緒に遊んで、一応は楽しくしてたけど、やっぱり感情は何も変わらなかった。
そして今。私たち4人はお昼ごはんを食べ終え、ホラーハウスの前に立っている。お化け屋敷は……嫌いです。奈緒も苦手みたいで、私の横で後ずさってます。
だけど、
「お化けなんていないんだからさー。作りもんだよ? みんなで行けば怖くない!」
という牧原君に引っ張られ、私は奈緒を連行して、そして奈緒はもちろん弘樹に押されて、中へ入ってしまいました。
「怖いよー……うわっ、なんか踏んだ!」
「気持ち悪ーい……!」
怖くて怖くて。右手で奈緒をしっかりつかんで。左手は牧原君につかまれて。というより、みんなとはぐれるのが嫌だから離さないようにつかみ直して。火の玉とか、亡霊とか、カサカサという音とか、落ちてくる水滴に結構ビビりながら、暗黒の家から脱出。所要時間10分って書いてあったけど、30分くらいいたと思います!
「ねぇ、夕菜ちゃん」
まだ出口近くのベンチでちょっと怯えてる私に、牧原君が話しかけた。
「ドキドキしてる?」
「え? ……してる……」
声のしたほうを見ると、隣に牧原君が……かなり近い──と思ったとき、ピンときた。
「あっ、その作戦? 残念だけど引っかからないよ!」
「うっ……だめかぁ……くそー」
心理学の世界では有名な話。恐怖体験のあとの異性との接触の際にドキドキしているのは、相手が気になるのではなく、恐怖に怯えているだけなので勘違いしないように、というやつ。いとこのお姉ちゃんが大学で心理学を習ってて、そんな話はいくつか聞いている。
確かに今、私はドキドキしてるけど、別に牧原君にときめいているわけではありませんから! お化け屋敷が怖かっただけ!
それから少し、牧原君は凹んでいたけど。出会いの印象がなかなか頭から離れなくて妙な気持ちだったけど。いつか誰かが駅で言ってたように、牧原君はブサイクでもないし。中身も良さそうだし。ちょっとは考えてみようかな、と思いながら仲良くしていたら、いつの間にかものすごく元気になっていた。
「あっ、そーだ弘樹、観覧車乗ろうよ!」
「おっいーねー! 行ってこいよ!」
目を輝かせる奈緒に続いて、牧原君が弘樹を押す。観覧車大好きな奈緒に引っ張られ、元気な牧原君に押されて2人は乗り場へ向かう。
「お、俺……高所恐ふしょ……」
「えーさっきジェットコースター乗ってたのに? 落ちないから大丈夫だよ! さっき私が怖かったから、今度は弘樹の番だよ! ほら早く!」
そんな2人がものすごく幸せそうに見えた。この関係がずっと続きますように。奈緒が笑顔を絶やしませんように。
「乗らなくていいのか?」
牧原君が聞いてきた。
「えっと……行っちゃったし……」
「チケットあと2枚残ってるけど……行く? 残しても仕方ねーし」
つまりそれはどういうことなのか考えてみたけど、所要時間15分を待つよりは乗ったほうが正解かもしれない。私と牧原君が乗った黄色いゴンドラは、夕焼けの空へ旅を始めた。
こないだの昼休み、章人が現れて弘樹を連れてった日。章人は弘樹に遊園地の乗り物のチケットをくれたらしい。自分が行ったときに使う予定だったのが、なんやかんやで要らなくなったとかで……。
「私はいいよー2人で楽しんできたら?」
って言ったのに。本当に私のことはどうでもいいのに。奈緒は私を連れていくといってきかなかったし、弘樹も、来てほしい理由があった。
「うーん……良いけど別に……その代わり本当に、私の気持ちは変わってないからね?」
電車の吊広告にあった、4人以上での入場割引。とは別に、例の彼・牧原君が一緒に遊びたいらしい。私はまだ彼のことをなんとも思ってないし、何も知らない。実際、午前中一緒に遊んで、一応は楽しくしてたけど、やっぱり感情は何も変わらなかった。
そして今。私たち4人はお昼ごはんを食べ終え、ホラーハウスの前に立っている。お化け屋敷は……嫌いです。奈緒も苦手みたいで、私の横で後ずさってます。
だけど、
「お化けなんていないんだからさー。作りもんだよ? みんなで行けば怖くない!」
という牧原君に引っ張られ、私は奈緒を連行して、そして奈緒はもちろん弘樹に押されて、中へ入ってしまいました。
「怖いよー……うわっ、なんか踏んだ!」
「気持ち悪ーい……!」
怖くて怖くて。右手で奈緒をしっかりつかんで。左手は牧原君につかまれて。というより、みんなとはぐれるのが嫌だから離さないようにつかみ直して。火の玉とか、亡霊とか、カサカサという音とか、落ちてくる水滴に結構ビビりながら、暗黒の家から脱出。所要時間10分って書いてあったけど、30分くらいいたと思います!
「ねぇ、夕菜ちゃん」
まだ出口近くのベンチでちょっと怯えてる私に、牧原君が話しかけた。
「ドキドキしてる?」
「え? ……してる……」
声のしたほうを見ると、隣に牧原君が……かなり近い──と思ったとき、ピンときた。
「あっ、その作戦? 残念だけど引っかからないよ!」
「うっ……だめかぁ……くそー」
心理学の世界では有名な話。恐怖体験のあとの異性との接触の際にドキドキしているのは、相手が気になるのではなく、恐怖に怯えているだけなので勘違いしないように、というやつ。いとこのお姉ちゃんが大学で心理学を習ってて、そんな話はいくつか聞いている。
確かに今、私はドキドキしてるけど、別に牧原君にときめいているわけではありませんから! お化け屋敷が怖かっただけ!
それから少し、牧原君は凹んでいたけど。出会いの印象がなかなか頭から離れなくて妙な気持ちだったけど。いつか誰かが駅で言ってたように、牧原君はブサイクでもないし。中身も良さそうだし。ちょっとは考えてみようかな、と思いながら仲良くしていたら、いつの間にかものすごく元気になっていた。
「あっ、そーだ弘樹、観覧車乗ろうよ!」
「おっいーねー! 行ってこいよ!」
目を輝かせる奈緒に続いて、牧原君が弘樹を押す。観覧車大好きな奈緒に引っ張られ、元気な牧原君に押されて2人は乗り場へ向かう。
「お、俺……高所恐ふしょ……」
「えーさっきジェットコースター乗ってたのに? 落ちないから大丈夫だよ! さっき私が怖かったから、今度は弘樹の番だよ! ほら早く!」
そんな2人がものすごく幸せそうに見えた。この関係がずっと続きますように。奈緒が笑顔を絶やしませんように。
「乗らなくていいのか?」
牧原君が聞いてきた。
「えっと……行っちゃったし……」
「チケットあと2枚残ってるけど……行く? 残しても仕方ねーし」
つまりそれはどういうことなのか考えてみたけど、所要時間15分を待つよりは乗ったほうが正解かもしれない。私と牧原君が乗った黄色いゴンドラは、夕焼けの空へ旅を始めた。