卒業証書は渡せない
第1章 ~高校1年生~

1.いつまでも

「ねぇ、奈緒、奈緒、奈ー緒ーっ!」

 その日、私は親友・大島(おおしま)奈緒を呼んだ。奈緒はちょっとした良家の1人っ子で、私とは幼稚園から一緒。私は高野夕菜(たかのゆうな)。奈緒とは違って普通の家に住んでいるけど、別に奈緒を特別扱いしたことはない。幼稚園のときに奈緒から話しかけられて、一緒に遊んだのが仲良くなったきっかけ。

 私が奈緒を呼んだのは、高校の入学式のあと。奈緒とはまた同じクラスになれた。

「あっ、夕菜! 帰ろう!」
「待って待って奈緒、ちょっと話が……」
「話? なに?」
「あのね、この人が──」


 ホームルームが始まる前に自分の席に座っていたら、隣の席の男の子に話しかけられた。見た目はまぁまぁ。背は高いほう。しばらくは自己紹介をして、慣れてきた頃、男の子は「あのさあ」と、本来の用事に話題を変えた。

「俺の3つ前の子、仲いいの?」
「3つ前? あー……奈緒?」
「ナオちゃん?」
「うん。大島奈緒」
「オオシマナオ……へぇー……どこに住んでんの?」
「奈緒? 奈緒はえっと……自転車で10分くらいのところ」
「ふーん……夕菜ちゃんっていったっけ?」

 男の子はじっと私の方をみて、少し考えてからこう言った。
「紹介して、あの子」

 というわけで私は、男の子を奈緒に紹介することになった。男の子の名前は、木良弘樹(きら ひろき)。中学のときにこの学校の中学部に転入してきて、ずっとバレー部にいたらしい。これからもバレー部に入るけど、中学と高校ではやっぱりメンバーも違う。弘樹のバレーは上手いけど、学校全体ではどこのチームにも負けてしまい、ナントカ大会で入賞、とかの経験はないらしい。

 弘樹は中学からこの学校にいるらしいけど、私と奈緒は別の中学にいた。

「良いな、幼馴染って。大学も同じところ行くとか?」
「ははは。もしかしたら一緒かも?」

 私は帰宅部で、奈緒はテニス部に入りたいと言っていた。でもまだこの日にクラブ活動はしていないから見学には行けない。

「そういえば夕菜ちゃんは家どこ? 奈緒ちゃんの近く?」
「うーん……私の方が遠いかな? 電車で帰るから。1駅だけ」
「すごいちょっとの差だけどね。電車の方が楽だしね」

 この高校のすぐ近くに駅がある。でもほとんどの子は自転車か徒歩で、電車で帰る子は私くらい。

「どうしよっかなぁ。1駅くらい歩こうかなぁ。まいいや。今日は電車で帰ろうっと」

 入学式だから保護者がいてもいいはずなのに、この学校はホームルームが無駄に長いために、保護者には先に帰るように言われていた。だからいつ出てくるかもわからない新入生を待つ保護者はほとんどいない。

 弘樹の家は歩いてもすぐらしく、奈緒と一緒に駅まで見送りに来てくれると言った。

「でも弘樹君、友達は?」
「あっ! くそーっ、喋ってる間に帰られた!」


 それから教室を出て靴を履きかえ、私が電車に乗るまで奈緒と弘樹はそばにいてくれた。弘樹のことは本当に何もしらないけど、良い人だと思う。あの人と一緒なら楽しいだろうとは思うけど、私は別に好きにはならなかった。それに、弘樹自身が奈緒のことを気に入ってたから。電車の窓から道を歩く2人を見たとき、すごくお似合いだった。やっぱり電車通学にしようかな。
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