卒業証書は渡せない
24.新しい環境
自分の席について荷物を片づけながら、正門でもらったクラス発表の紙を眺めていた。
奈緒や弘樹とは離れてしまったけど、知っている人がまったくないわけではない。去年同じクラスだった人や、もちろん他のクラスだった友人もいる。
「あー、琴未、久しぶり!」
出席番号順に並んで隣の席に、中学で仲良くしていた谷野琴未がいた。
「夕菜ー! 懐かしい……痩せた?」
痩せました。
でもそれは、ダイエットしたとか運動したとかではなくて。確かにダイエットもしてみたけど、違う理由で痩せた。
「噂で聞いたんだけど、夕菜、大胆に告られたんだって?」
「……そうかな」
「みんなが注目してたって聞いたけど。何組?」
琴未は目を輝かせて聞いてきたけど、牧原君はもういない。遊園地でデートした次の日の早朝、アメリカに行ってしまった。日本時間の夜10時くらいにメールをくれた。
そのことを掻い摘んで琴未に話すと、
「え? 夕菜の彼氏って、牧原君だったの?」
ものすごく驚いていた。
「牧原君って、ものすごく良い奴だよね」
「うん……優しかったよ。いろいろ、相談乗ってくれたし」
「友達は? 去年同じクラスだった友達」
「見事にバラバラだよー。だからこの教室入ってくるのちょっと勇気いったよ。良かった、琴未がいて」
そうしているうちにホームルームが始まって、新年度の諸々提出が終わってから、担任が牧原君の話をした。アメリカのニューヨークに無事到着し、バスケットボールで有名な学校に転入した。しばらく日本に帰る予定はないけど、いつかは帰るかもしれない。
──という話は、私は本人から聞いていたけれど。
始業式も終わって放課後、私は琴未と別れて隣のクラスの奈緒を呼びに行った。
奈緒は、新しい友達できたかな。
という心配は無用だったらしく、教室を覗くとすでに何人かの友達に囲まれていた。もちろん男の子にも囲まれていたけど、弘樹が遠くから奈緒を呼ぶ声がして、みんな逃げて行った……。
「奈緒ー大丈夫にしてたか? 苛められてないか?」
弘樹は本当に気になっていたんだろうけど。
「心配しすぎだよー。大丈夫だよ私は。夕菜はどうだったの?」
「教室入るの勇気いったけど、琴未が一緒だったよ。それより弘樹が心配なんだけど……例の、先輩の妹」
去年の2学期頃から、弘樹のまわりに現れた謎の女の子。それは同級生でバスケ部の斎鹿博美だと牧原君が教えてくれた。ふと思い出してクラス発表を見たら、弘樹の隣のクラスだった。
「夕菜……まさか俺を疑ってんの?」
「そうじゃないけど、私と奈緒がいないからガードが薄いなぁと思って」
今までは、学校にいる間は四六時中、弘樹のそばに誰かがいたけど、今年は誰もいない。
弘樹はみんなの人気者。というのは、やっぱりクラスのみんなが知ってたみたいで、新しいクラスでもさっそく友達を増やしていた。
「また、そこにいるんだけど」
奈緒のクラスに友人がいるのか、廊下に博美がいた。あの時と同じように楽しそうに喋りながら、ときどき弘樹を見ていた。
「どうせなら」
弘樹は少し、教室の外を見て。
「──入って来いよな。用があるんなら。来ないあたり、用はないって判断するぞ」
それは博美だけでなく、奈緒を見ていた男の子たちへも向けられていたようです……。
私本当に、大丈夫なのかな。
奈緒や弘樹とは離れてしまったけど、知っている人がまったくないわけではない。去年同じクラスだった人や、もちろん他のクラスだった友人もいる。
「あー、琴未、久しぶり!」
出席番号順に並んで隣の席に、中学で仲良くしていた谷野琴未がいた。
「夕菜ー! 懐かしい……痩せた?」
痩せました。
でもそれは、ダイエットしたとか運動したとかではなくて。確かにダイエットもしてみたけど、違う理由で痩せた。
「噂で聞いたんだけど、夕菜、大胆に告られたんだって?」
「……そうかな」
「みんなが注目してたって聞いたけど。何組?」
琴未は目を輝かせて聞いてきたけど、牧原君はもういない。遊園地でデートした次の日の早朝、アメリカに行ってしまった。日本時間の夜10時くらいにメールをくれた。
そのことを掻い摘んで琴未に話すと、
「え? 夕菜の彼氏って、牧原君だったの?」
ものすごく驚いていた。
「牧原君って、ものすごく良い奴だよね」
「うん……優しかったよ。いろいろ、相談乗ってくれたし」
「友達は? 去年同じクラスだった友達」
「見事にバラバラだよー。だからこの教室入ってくるのちょっと勇気いったよ。良かった、琴未がいて」
そうしているうちにホームルームが始まって、新年度の諸々提出が終わってから、担任が牧原君の話をした。アメリカのニューヨークに無事到着し、バスケットボールで有名な学校に転入した。しばらく日本に帰る予定はないけど、いつかは帰るかもしれない。
──という話は、私は本人から聞いていたけれど。
始業式も終わって放課後、私は琴未と別れて隣のクラスの奈緒を呼びに行った。
奈緒は、新しい友達できたかな。
という心配は無用だったらしく、教室を覗くとすでに何人かの友達に囲まれていた。もちろん男の子にも囲まれていたけど、弘樹が遠くから奈緒を呼ぶ声がして、みんな逃げて行った……。
「奈緒ー大丈夫にしてたか? 苛められてないか?」
弘樹は本当に気になっていたんだろうけど。
「心配しすぎだよー。大丈夫だよ私は。夕菜はどうだったの?」
「教室入るの勇気いったけど、琴未が一緒だったよ。それより弘樹が心配なんだけど……例の、先輩の妹」
去年の2学期頃から、弘樹のまわりに現れた謎の女の子。それは同級生でバスケ部の斎鹿博美だと牧原君が教えてくれた。ふと思い出してクラス発表を見たら、弘樹の隣のクラスだった。
「夕菜……まさか俺を疑ってんの?」
「そうじゃないけど、私と奈緒がいないからガードが薄いなぁと思って」
今までは、学校にいる間は四六時中、弘樹のそばに誰かがいたけど、今年は誰もいない。
弘樹はみんなの人気者。というのは、やっぱりクラスのみんなが知ってたみたいで、新しいクラスでもさっそく友達を増やしていた。
「また、そこにいるんだけど」
奈緒のクラスに友人がいるのか、廊下に博美がいた。あの時と同じように楽しそうに喋りながら、ときどき弘樹を見ていた。
「どうせなら」
弘樹は少し、教室の外を見て。
「──入って来いよな。用があるんなら。来ないあたり、用はないって判断するぞ」
それは博美だけでなく、奈緒を見ていた男の子たちへも向けられていたようです……。
私本当に、大丈夫なのかな。