卒業証書は渡せない
29.真夜中の電話
その夜、私は眠れなかった。
なぜなら、今までの弘樹と奈緒の仲の良さに苦しめられて、ではなくて、もうすぐ牧原君に会えると思うと嬉しくて。
普段、学校では奈緒と仲良くしているけど、弘樹は私が苦しんでいることを理解してくれていた。
ただ、それの本当の原因を分かっているのかはわからなかったけど。私を元気にしようとして、旅行のことを思いついたらしい。
(牧原君、どうしてるかな……メールしてみよう)
もちろん、牧原君がアメリカに行ってしまってからも、何度かメールをしたことはある。時差が14時間あるから返信がものすごく遅くなってしまうこともあったけど、牧原君はちゃんと返事を送ってくれたし、私もすぐに返した。
でも、奈緒と弘樹のことを見ているのが辛くなり、苦しくなるにつれて、心に余裕が持てなくて、メールもなかなか送れなくなった。
(でも、今は大丈夫だ……)
牧原君のことしか考えなかった。
いま、どんなことを勉強してるの、とか。バスケットボールは頑張れてるの、とか。英語はペラペラになったの、とか。
聞きたいことがたくさんあって、言いたいこともたくさんあって、文字数が多すぎて途中で入力できなくなった。
(どうしよう……まだあるのに、どれも省略できないなぁ)
文章を短くしすぎてちゃんと伝わらないのも嫌で。だらだら打って、読むのを疲れさせてしまうのも嫌で。でも、ものすごく牧原君と連絡をとりたくて。
『旅行のこと、弘樹から聞いたよ。私には内緒だったのに、ごめんね。弘樹は悪くないから責めないでね。行き先は決めてるの? 会えるの楽しみにしてます!』
簡単に、それだけで送信した。
日本時間で夜の12時ということは、牧原君がいるはずのニューヨークは今、昨日の朝10時。
その時間だったら、学校に行ってるかもしれない。
すぐに返事を読みたいけど、無理だろうな。
けれどやっぱり眠れなくて、目を閉じても眠くなるどころか牧原君のことばかり思い出してしまって。
「……寝れない……」
明日が休みで良かったな、と思う。これが平日の夜だったら、絶対、授業中に居眠りするハメになるに決まってるんだ。
ブーッ、ブーッ、ブーッ……ブーッ、ブーッ、ブーッ……
突然の振動に思わずビクッとしたけど、自分のケータイから聞こえるとわかってそれを手に取った。友達は流行りの曲を着信にしている子がほとんどだけど、私もそうした時期もあったけど、やっぱり急に音楽が鳴るとビックリするから、結局、常にマナーモードに設定している。
メールかな、と思ったら。
「──もしもし」
『夕菜ちゃん? 寝てた?』
「ううん。眠れなくて、起きてた」
ディスプレイには、電話がかかって来た時のアニメと一緒に、牧原君の名前が表示されていた。
『──ちょっと、夕菜ちゃん、大丈夫?』
牧原君から電話がかかって来たことが嬉しくて、こらえていたものが溢れ出していた。私が落ち着くまで、牧原君は電話の向こうで待ってくれていた。
『まだ、辛そうだな』
「うん……違うクラスで良かったかも」
『1人で、寂しくないか?』
「大丈夫だよ。中学の時の友達がいたから。心配し過ぎだよ?」
『そうかな……ははは』
でもその気持ちが嬉しくて、「ありがとう」と付け加えた。
『行き先、まだ決めてないんだけどさ』
「うん」
『旅行以外に──2人だけで会いたい』
なぜなら、今までの弘樹と奈緒の仲の良さに苦しめられて、ではなくて、もうすぐ牧原君に会えると思うと嬉しくて。
普段、学校では奈緒と仲良くしているけど、弘樹は私が苦しんでいることを理解してくれていた。
ただ、それの本当の原因を分かっているのかはわからなかったけど。私を元気にしようとして、旅行のことを思いついたらしい。
(牧原君、どうしてるかな……メールしてみよう)
もちろん、牧原君がアメリカに行ってしまってからも、何度かメールをしたことはある。時差が14時間あるから返信がものすごく遅くなってしまうこともあったけど、牧原君はちゃんと返事を送ってくれたし、私もすぐに返した。
でも、奈緒と弘樹のことを見ているのが辛くなり、苦しくなるにつれて、心に余裕が持てなくて、メールもなかなか送れなくなった。
(でも、今は大丈夫だ……)
牧原君のことしか考えなかった。
いま、どんなことを勉強してるの、とか。バスケットボールは頑張れてるの、とか。英語はペラペラになったの、とか。
聞きたいことがたくさんあって、言いたいこともたくさんあって、文字数が多すぎて途中で入力できなくなった。
(どうしよう……まだあるのに、どれも省略できないなぁ)
文章を短くしすぎてちゃんと伝わらないのも嫌で。だらだら打って、読むのを疲れさせてしまうのも嫌で。でも、ものすごく牧原君と連絡をとりたくて。
『旅行のこと、弘樹から聞いたよ。私には内緒だったのに、ごめんね。弘樹は悪くないから責めないでね。行き先は決めてるの? 会えるの楽しみにしてます!』
簡単に、それだけで送信した。
日本時間で夜の12時ということは、牧原君がいるはずのニューヨークは今、昨日の朝10時。
その時間だったら、学校に行ってるかもしれない。
すぐに返事を読みたいけど、無理だろうな。
けれどやっぱり眠れなくて、目を閉じても眠くなるどころか牧原君のことばかり思い出してしまって。
「……寝れない……」
明日が休みで良かったな、と思う。これが平日の夜だったら、絶対、授業中に居眠りするハメになるに決まってるんだ。
ブーッ、ブーッ、ブーッ……ブーッ、ブーッ、ブーッ……
突然の振動に思わずビクッとしたけど、自分のケータイから聞こえるとわかってそれを手に取った。友達は流行りの曲を着信にしている子がほとんどだけど、私もそうした時期もあったけど、やっぱり急に音楽が鳴るとビックリするから、結局、常にマナーモードに設定している。
メールかな、と思ったら。
「──もしもし」
『夕菜ちゃん? 寝てた?』
「ううん。眠れなくて、起きてた」
ディスプレイには、電話がかかって来た時のアニメと一緒に、牧原君の名前が表示されていた。
『──ちょっと、夕菜ちゃん、大丈夫?』
牧原君から電話がかかって来たことが嬉しくて、こらえていたものが溢れ出していた。私が落ち着くまで、牧原君は電話の向こうで待ってくれていた。
『まだ、辛そうだな』
「うん……違うクラスで良かったかも」
『1人で、寂しくないか?』
「大丈夫だよ。中学の時の友達がいたから。心配し過ぎだよ?」
『そうかな……ははは』
でもその気持ちが嬉しくて、「ありがとう」と付け加えた。
『行き先、まだ決めてないんだけどさ』
「うん」
『旅行以外に──2人だけで会いたい』