卒業証書は渡せない

40.居場所

 そしてまた、冬がやってきました。

 奈緒と弘樹は、相変わらず仲が良くて。冬休みの間も、年末年始以外は何回もデートして。もちろん、クリスマスも一緒に過ごしたそうで。

「将来のことは何も考えてないけど、弘樹と同じ大学に行きたいなぁ」

 って、始業式の日に奈緒は笑ってた。
 私は、どうなのかな。

 もちろん、奈緒とは一緒にいたい。
 弘樹とも、友達以上の関係は崩したくはない。
 牧原君は──バスケのことは別にして、アメリカの大学に進学して、就職も、向こうでするらしい。

 そうなったら、やっぱり、別れることになってしまう。
 私は牧原君を忘れられるのかな。どうなるのかな。

「どうしたの、難しい顔して」

 昼休み、一緒にお弁当を食べていた琴未が私の顔を覗きこんだ。

「そ、そんな顔してた?」
「してたよ。また──木良のこと?」
「それもあるけど……将来のこと……私たち、どうなるのかな、って」

 もし、牧原君が日本で就職するのなら、大学卒業まで今の関係を続けても良いと思う。
 でも、牧原君が就職するのは海の向こうの国。
 いつ戻って来るのかわからない相手を、私も長くは待てない。

「いっそ、言っちゃえば?」
「言うって、何を?」
「ん? あの2人に本当のこと。夕菜は本当は木良が好きなんだって」
「い、言えるわけないよ! 言ったら、ますます居場所がなくなるよ……」
「居場所かぁ。でも、夕菜、前よりはあの2人の近くにいるようになったよね。2年になった頃、距離置いてるって、すぐにわかったもん」

 夏休みの間、牧原君が何度も会ってくれたおかげで、私は──最初ほどとは言えないけど、奈緒と弘樹を見守れるようになった。
 3人で行動することも、そんなに辛くなくなった。
 でも、2人との関係は、あまり変わっていない。

「本当は……言いたいんだけどね。牧原君とは、近いうちに別れるだろうから……」
「やっぱりそうなるの?」
「うん。寂しいけど……向こうで就職するって言ってるし。私も日本を出る予定はないし」

 私が溜息をつく横で、琴未は教室を見回した。

「例えばだよ、全く別の人と付き合ってみるとか、どう?」
「……今は考えられないよ」

 仲良くしている男の子が、弘樹と牧原君以外にいない、とは言い切れないけど。
 クラスの男の子とは、必要に応じて、会話してるけど。
 学校以外で仲良くしたいと思うような、気になる人はいない。
 それに、もし、牧原君と別れて他の誰かと付き合ったとして──奈緒と弘樹と距離があく、なんてことも嫌だ。

「でもね、夕菜、聞くだけ聞いてほしいんだけど」
「うん。なに?」

 琴未は一拍置いてから、私にこう言った。

「いるんだよ、夕菜のこと気にしてる男子」
「えっ、誰?」
「それは、今は言えないけど……何人かね。いつも木良と奈緒についてるけど、彼氏いないのか、って時々聞かれる。違う学校にいるよ、ってだけ答えるんだけど」

 牧原君は、学校でどうなってるのかな。
 私と同じようなことになってるのかな。

 ──やっぱり、牧原君のことばっかり考えてる間は、他の人とは付き合えないよ。
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