卒業証書は渡せない

42.眠れない夜

 それから1ヶ月くらい経って。
 2年生も終わりに近づいていて。

 バレンタインの日、やっぱり牧原君にはメールしか出来なかったけど、すぐに返事をくれた。牧原君もやっぱり、アメリカの学校で女の子からアタックされてるそうで──。

「今は夕菜ちゃんのことしか頭にないから、本当に。いつも断ってるよ」

 電話したときに、そう言ってた。

 ちなみにあの日、奈緒と弘樹は……。
 周りにいた人たちみんなが注目する中で、やっぱり入場料を半額にしてもらったそうです。

「あれだけ長かったらタダでも良かったのにな。もっとしないとダメなのかな」
「じゅ、じゅうぶんだよ、息苦しかったよ……」

 教室の隅で、奈緒が真っ赤に小さくなっていた。
 本当に弘樹は、奈緒のことが大好きだった、のに──。


 私は牧原君と毎日メールしてたけど、奈緒とも頻繁にメールした。学校でももちろん会うけど、メールだって忘れなかった。

 親友だったから。
 可愛い妹だったから。
 頼れるお姉ちゃんだったから。
 何より、ずっと憧れだったから。

 メールをしたら、すぐは無理でもその日のうちに返事をくれたし、私も、すぐに返した。

 なのに──。

 高校2年の3学期終業式前日の夜、奈緒と弘樹にメールを送って、少ししてから牧原君にもほぼ同じ内容のメールを送った。

 牧原君からはすぐに返事が来た。
 メールをしていない、他の友達からも、いくつか届いていた。

 奈緒はクラブがあったから、途中まで一緒に歩いて、グラウンドで別れた。
 明日で終わりだね、とか。
 来年は同じクラスが良いね、とか。
 牧原君と会いたいね、とか。

 そんな話をしたのを最後に、奈緒とは連絡がとれなくなった。

 まさか……そんなわけないよね……、って。
 明日には元気に、メール出来なくてごめん、って言ってくれるよね……、って。

 メールを送ってから何時間経っても、日付が変わる頃になっても、奈緒からのメールは届かなかった。

 そんなわけ……ないよね……、って。

 でも……弘樹からも返事がないのは……どうして……?

 2人から返事が来ないのは、回線がパンクしたから、と信じたかった。妹の春美もあちこちにメールして、○△ちゃんから返事がないよ、って焦ってた。

 私は元気だったけど、町はあちこちで騒ぎになっていた。
 水が出ない、とか。
 電気が入らない、とか。
 地面が割れて電柱が、道が、とか。
 土砂崩れが起きて、山道が、家が、とか。

 奈緒の家にも電話したけど、回線が壊れたみたいで繋がらなくて。

 ねぇ、奈緒──今、どうしてるの?
 ねぇ、弘樹──奈緒はどうしたの?

 琴未も奈緒のアドレスを知っていたけど、連絡がつかない、と電話があった。牧原君に聞いてみても、弘樹とは連絡がとれない、と不安そうだった。

 ねぇ、2人とも……元気、だよね。
 明日には、会えるよね。

 日付が変わってしばらくして、私は布団に潜りこんだ。途端にガタガタ、と再び家が揺れて、すぐに止まった。

 けれど、久々に感じた震度5の恐怖は、なかなか身体から離れなかった。何度も何度も余震が来て、ケータイだって速報が鳴りっぱなしで、とてもじゃないけど眠れなかった。
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