卒業証書は渡せない

47.言えない気持ち

 弘樹がようやく元気を取り戻したのは、夏休みに入る前。

 もちろん、前みたいに超元気! ではないけど、それでも奈緒が亡くなった頃に比べたら、かなり元気になった。

 私と弘樹の関係は、何も変わっていない。
 同じクラスだけどちょっと仲が良いだけで、クラスメイトに変わりはない。学校では普通に話すけど遊ぶことは全然ないし、付き合うか、なんて話は全く出ていない。

「でも、毎月一回は一緒に帰ってるよね」

 琴未がそう言うのは、奈緒の月命日。
 どうしても都合があわないとき以外は、一緒に帰ってお墓参りをした。

「夕菜は本当に良いの? 木良に言わないの?」

 私が本当は、ずっと弘樹が好きだという事実。

「言わない。言っても、どうにもならないし。奈緒のものを奪うつもりもないし」
「でも、夕菜……別れたんでしょ?」

 弘樹が元気になって来たのと同じ頃、牧原君から別れ話がきた。
 嫌いになってないし、むしろまだ好きだけど。
 遠距離でいつ会えるかわからないのと、本来の私の気持ちを優先させたのとで、別れを選んだ。

「それに、木良だって、元気になったし」
「見た目はね。でも、まだ奈緒のことで頭いっぱいだよ」

 授業中に発言するときも。
 体育で走り回ってるときも。
 休み時間に遊んでるときも。

 弘樹は確かに元気だったけど、ふと遠くを見つめている時間は減っていなかった。
 お墓参りをするときも、いつも奈緒に語りかけていた。

「木良はどう思ってるんだろうね、夕菜のこと」
「さぁ……」

 クラスメイト以上、だとは思うけど。
 私との関係は、出会った頃と変わらないし、特に女の子として見られたこともない。

 だから私も、弘樹を男の子として見るのはやめた。
 好きなのは変わらない。
 でも、どうにも変えられない。
 弘樹はまだ奈緒のことが忘れられない。
 そんな彼に好きなんて言うのは辛い。


 7月の月命日は、終業式の日だった。
 荷物を持って、弘樹と一緒に教室を出た。
 そのまま正門を出て奈緒に会いに行った。

「そういえば、奈緒の誕生日は7月だったよね」
「ああ……そうだな。生きてれば、お祝いしたのにな」

 奈緒は、雲の上から見てるのかな。
 去年の誕生パーティーには弘樹も参加して、そのあと奈緒は浴衣で花火大会に行った。同じ時、私は牧原君が借りた部屋で同じ花火を見ていた。

「ねぇ、弘樹──これからどうするの?」
「どうって、なにが?」
「ずっと、奈緒のこと忘れないのは良いんだけど……彼女つくらないの?」

 聞いていいのかわからないけど。
 答えてくれるかわからないけど。
 思ったより早く、声が聞こえた。

「いつかは──いつかは、つくるよ。でも、今は予定ない」
「そうだよね……ごめんね、変なこと聞いて」

 今の弘樹に、奈緒しか見えてないことはわかってる。
 でも、やっぱり、意識されない自分も悲しくて。
 零れそうになった涙を、歯を食いしばって我慢した。


 本当は、大好きなのに。
 奈緒みたいに、彼女になりたいのに。

 私また、どうしていいのかわからないよ──。
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