卒業証書は渡せない

52.受験勉強

 文化祭と体育祭が終わったら、残るは受験。
 大学入試の過去問を解くことも増えたし、模試だって増えた。
 3年生のほとんどはクラブを引退していたし、私は元々帰宅部だから、特に変わったことはない。

 勉強、勉強。また勉強。

「はぁ、やだなぁ。毎日テストだよ」
「漢字とか、英単語とか、もう、嫌……」

 琴未は机に突っ伏して、はっと顔を上げた。

「待って、今、10月? 1、2、……センター試験まで3カ月しかないよ! やば!」

 そんな会話が学校のあちこちで交わされて。
 3年生の表情は、みんな硬くて。
 模試を受ける度に、結果に溜息をついて。
 先生に呼び出されて、落ち込んで、励まされて。

「心臓に悪いよね……」
「うん。早く終わって欲しいなぁ。大学に入る前に、思いっきり遊びたい!」
「そうだ、受験終わったら、遊びに行こう!」

 そんな話をして、気持ちを切り替えて。
 勉強を思いっきり頑張れた! 日もあれば、全然気合が入らなかった日だって、もちろんあります……。


 受験校を決めて、願書を取り寄せて。
 書いて、送って、あとは本番のみ……。

 なのに。
 勉強に集中したいのに。

 時々視界に入って来る弘樹のことが、頭から離れなかった。
 私の本当の気持ちと。
 牧原君が勧めてくれてることと。
 琴未が感じてることと。
 弘樹の行動の意味と。
 どうしても、頭から離れない。

 でも──、私にはどうすることも出来ない。
 だから、答えから逃げて勉強したいのも事実。


「またボーっとしてたね?」

 休み時間、すぐに琴未が言いにきた。

「受験も近いんだから、本当に気合入れないとダメだよ」
「わかってるよ……でも……」

 受験より、弘樹との関係のほうが難しい問題。
 奈緒がいたら、こんなに悩まなくて良いのに──。

「やっぱり、一旦忘れた方が良いんじゃない?」
「忘れる……難しいよ……」

 話すことは少なくても、弘樹はクラスメイト。嫌でも声が聞こえるし、話しかけられることもある。
 弘樹を見たら、必然的に奈緒のことも浮かんでくる。
 それに弘樹は今も奈緒の遺品──2人の想い出のものを持ち歩いてる。2人の間には、入ってはいけない。

「忘れられないし、奪えないし。……なんでクラスメイトなんだろう……」

 最初は、落ち込んだ弘樹を元気付ける予定だった。
 でも今は、弘樹の存在が一番厄介。
 もちろん、嫌いじゃない。
 好きかと聞かれれば、はい、と即答する。
 だから、厄介。


 そして、決めた──必要以上に弘樹と話さない。

 まず、受験がすぐそこまで迫ってるから、勉強する。
 休み時間も勉強するか、琴未と難しい顔で話す。
 帰りも、弘樹に捕まらないようにして、月末のお墓参りは冬休みに入ってるから学校には来ない。
 メールも電話も、最近は全然届かないから。
 弘樹も同じ受験生だから、接触は減る。はず。
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