ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
めぐりあい
黎はテムズ川沿いの道を歩いていた。
三月のイギリスはまだ寒く、コートの襟を立てていた。ビックベンの前まで来ると川を向いて止まった。
イギリスは今回で三回目。母が療養でイギリスの空気が綺麗な田舎町で年の半分は過ごすようになって、父と交代でイギリスへ来るようになった。母のいる湖水地方を訪ねてから、ロンドンの支社で仕事をし、東京へ戻るという段取りだ。
今日はロンドンで少し早めに仕事を終えて、昼間は天気が良かったので少しのんびりと歩いて戻るところだった。
夕方に入り、川風も手伝ってさらに寒くなってきた。すると目の前をピンク色のスカーフが左側から風に飛ばされて空を泳いでいる。手を伸ばしても届かない所まで飛んでいき、徐々にテムズ川へ落ちていった。
「あー、もう!いやだ、どうしよう……」
日本語が聞こえる。
左側を見ると、欄干をつかんでつま先立ちで手を伸ばしている女性がいる。
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