ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
彼は、ピアノコンクールに出ることはなくなった。そして、教室をやめていった。怖かった。たまに、コンクールを見に来ていて、挨拶されたりした。あの目。今でも忘れられない。
先生が、恋愛経験はないよりは絶対あったほうがいいという。弾いたときに良い影響があると……。
好きな人を想う気持ちを曲に乗せて作った作曲家もいるし、ショパンのような恋を思い起こさせる曲が多い作曲家を弾く時はそうかもしれないと思うのだ。
でも……怖い。あの時のあの彼の目。そして、執着。忘れられない恐怖。
それ以降、どうしても男性に笑顔を向けるのが怖い。音楽だけに集中しているときが幸せだったのに……。
黎さんはとても素敵な人だ。会えば会うほどそう思う。
見た目はもちろん美男子だと思う。それに、社会的にも有名な会社の御曹司という立場らしい。