ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「この内容。もしかして、お前が堂本に提案したのか?」
「え?」
「前に言ってただろ。ベートーベンのソナタやりたいって」
「……はい、そうです」
下を向いて答える。怒られるかしら。だって、会社では私より先輩のピアニストが予定しているって聞いていたから、私は出来ないと諦めてた。だから以前神楽さんには冗談めかして私もいつかやりたいなって言ったのだ。
「はあ。やはりそうか。堂本が絶対やりたいって言うと思うって妙に自信ありげなんだ。おかしいと思ったよ」
「……ごめんなさい」
神楽は百合を見た。申し訳なさそうに小さくなっている。彼女なりに、このプロダクションでの立場を考えている。