ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 いくらコンクールの受賞者であっても、若くてまだ経験が浅いとプライドの高い年配のピアニストに自分のやりたい曲を譲ってくれとも言えないし、同じ曲をレコーディングして同じ時期に発売なんて絶対無理だ。

 反面、若いからこそ練習時間も取れるし、伸び盛りだ。新しい曲の吸収も早い。できるならやらせてやりたいというのが俺の気持ちだ。
 残念ながら俺にはまだ権限はない。ただ、今回の出資者の意向というのは上層部には強い。百合はラッキーだ。

 「いや。良かったな。堂本に礼を言っておいた方がいいかもな。あいつはあいつで、社内で色々揉まれてるんだろうし……。お前を優先してくれるようプレゼンしたんだろう」

 百合は嬉しそうに笑顔を見せた。

 「はい。今度お目にかかったときにお礼を言います」

 神楽は嫌な予感がしたので、一応かまをかけてみた。
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