ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「今はいらないよ。寒いからね、きちんと首に巻いて今日は帰りなさい。風邪を引いたらコンサートに出られなくなるぞ。オケの人や楽しみにしているお客様に迷惑をかけるだろ?」

 百合はそう言われたら何も言い返せなかった。

 「わかりました。お気持ちありがたく頂きます。当日受付に預けておきますね」

 「いや、楽屋へ伺うから終演後待っていて欲しい」

 「……あの、えっと」

 黎は腕時計を見ると、彼女の言葉を遮った。

 「ごめん、時間がないからこれで失礼するよ。タクシー拾ってあげようか?どこのホテル?」

 「いえ、大丈夫です。あと、三十分くらいで近くにマネージャーが迎えに来ますので」
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