ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 神楽はその音を聞きながら、振り向いて呟いた。
 
 「絶対に、堂本には渡さないぞ、百合……」

 その夜。彼から電話があった。

 「百合さん、ベートーヴェンのソナタ全曲演奏の話、神楽から聞いた?」

 「はい!聞きました!ありがとうございました。とても嬉しかったです」

 本当に嬉しいんだなとわかるくらい、声が一オクターブ上がっていた。
 黎も彼女がこんなに喜んでくれるなら、社内で話を持っていくのに苦労した甲斐があったし、嬉しかった。

 「それで、これから忙しくなります。練習してレコーディングしなくちゃいけないし、ツアーに出るまでに大学の講義も調整しないといけないので……」
< 111 / 327 >

この作品をシェア

pagetop