ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
 
 何を着ていこう、どんな靴で、どんなバッグでと考えるようになったのは最近。今日も、またそんなことを想像しながら眠りに就くのだった。

 黎は、彼女を連れてきたいと思っている部屋にいた。母の思い出の部屋だ。ここは、実家とは別で母が借りていたマンションの一室。父が浮気を繰り返すたび、ここに来て彼女が心をリセットしていた部屋だ。

 黎も一緒に来ていたこともある。だから、生活も出来るようになっているのだ。いずれ、ここでひとり暮らしをしたいと言ったのだが、中々実現しない。
 
 忙しいのもあって、ひとりだと食生活から何から何までお手伝いさん頼みだった自分に出来ないこともわかっていたからだ。
 
 窓に面したリビングには母の白いピアノがある。母はよくこの部屋で好きなクラシックを聴いて、ピアノを弾いたりしていた。
 
 娘時代にピアノを習っていたらしく、気まぐれに弾くのが趣味だった。唯一お金をかけたところは防音設備を入れていること。夜、家を抜け出して来ても弾けるように……。
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