ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「失礼だぞ、静香。自分の知識がないくせに。彼女は去年のコンクールの受賞者だ。海外で最近まで凱旋リサイタルをして日本へ戻ってきたばかりだぞ。お前が知らないだけだ」
静香は悪びれもせず、舌を出した。
「あらそうなの、失礼しました。でも、黎が連れ歩いていることの方が、彼女のお仕事より有名になりそうね、ふふふ」
百合は黙って聞いている。鐘が鳴った。
「あら、時間だわ。じゃあね、また」
そう言うと、静香は長いドレスを翻して戻っていく。
「すまない。失礼な奴なんだ。気にしないでくれ」
「いえ、事実ですから……」