ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「そう。じゃあ、ここでゆっくりしていたら?お支払いはしておくからね」
そう言うと、名刺を出して裏に電話番号とメアドを書く。
「これが俺のプライベートの番号。何かあれば連絡して」
「あ、あの、私の番号は……」
「あさって、必ず行く。その時に教えてくれ。じゃあ、演奏を楽しみにしているよ」
そう言って、黎は出口でふたり分の支払いを済ませると出て行った。
彼は、満足げに久しぶりの笑顔を浮かべていることに自分では気付いていなかった。
百合は取り残されてその名刺を手に取り、じっと見つめた。
『堂本コーポレーション 東京営業本部 堂本 黎』