ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 真っ正面から両手を握って、殺し文句を投げられる。至近距離で彼の整った美しい顔を見るだけでドキドキした。
 百合はごまかすことができなかった。そして、答えた。

 「私もあなたが好き……はじめてこういう気持ちになったの。先ほど会った女性は名前を呼び捨てしてた……仲がいいんでしょ?」

 嫉妬のこもった言葉を投げかけられて、黎は彼女をそっと抱き寄せた。

 「こんなふうに自分から抱き寄せたり、肩を抱いたのは君だけだよ。呼び捨てか……なら、百合って呼んでいい?」

 胸から離して彼女の顔を覗くと赤くなってうなずいた。
 
 「そうだ、君も俺のこと呼び捨てしてくれてかまわないよ、黎、と」
 
 「呼び捨てなんて出来ないわ。だって、私よりお兄さんでしょ?」
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