ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

近づく距離

 
 百合は大学での生徒へのレッスンの時間を減らしてもらい、自分の練習時間を作り始めた。

 夕方から夜にかけては、防音設備もある黎の母のマンションはとても役に立った。

 プロダクション内のピアノ室をあまり借りなくなったことに、神楽は疑問を持っていた。

 大学のほうも行く時間が減っているのに、自宅で練習しているのだろうかと思っていた。

 だいたい、百合の部屋では音があまり出せないし、アップライトピアノしかないことを神楽も知っていた。

 「百合、練習しないでいいのか?ここのピアノあまり使っていないだろ」

 「……あ、えっと。別でグランドピアノを借りられることになったので、そちらで練習しています」

 神楽は嫌な予感がした。
 彼女が練習しなければいけないことを知っている人物が貸しているに違いない。
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