ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 彼女はマフラーを巻き、コートを着て身支度をして、席を立った。この後は、事務所関係者とディナーの予定だった。

 マネージャーの神楽は今日の昼間、リハーサル後百合と別れたとき、元気がなかったのを心配していた。

 ところが、今は明るく元気な彼女に戻っていたので安心した。どうやって元気づけようかと考えながら来たからだ。

 とりあえず、良かったと彼女を見つめる。すると、百合が昼間していたスカーフが男物らしきマフラーに変わっているのをめざとく見つけると、問いただした。

 「百合、そのマフラー買ったのかい?男物みたいに見えるけど……」
 
 「え?あ、スカーフをテムズ川へ落としてしまったの。そしたら側に日本人の男性がいて、くしゃみをしている私にたまたま持っていた新品の予備のマフラーを貸してくれたの」

 「貸してくれた?」
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