ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 しかし彼の父親は、最近黎が車で戻ってこないことや、夕飯を家でとらないことをいぶかしがっていた。
 黎の仕事の状況は把握している。忙しい時期も柿崎に聞けばわかる。彼は黎の仕事も右腕として手伝っているのだ。
 
 いずれ、黎が役員になったとき、すべてを任せられる腹心が必要だと自分の時からわかっているから、幼少期からつけていたのだ。柿崎の父親は社長である自分の秘書をしている。昔から家族ぐるみの付き合いだ。

 夜間戻ってきた黎に声をかけた。

 「黎。お前、最近どこへ行っているんだ?」
 
 「母さんの部屋です。たまには行ってメンテナンスしないと。使えるようにしておいてあげたいんです。いつ戻ってもいいように……」
 
 父は母思いの黎のことはわかっているので、何の疑いもしなかった。
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