ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
 
 彼も御曹司。いずれ、蓮見商事の社長になるはずだ。
 公私ともに付き合って行かざるを得ない。良い関係でいたいとお互い気を遣っている。

 「ああ、広也。この間はありがとう、助かったよ」

 広也が寄ってきて、小さい声で囁いた。

 「おい、お前が見合い話を蹴った、あの社長令嬢。今度は俺に話が回ってきたぞ。いい加減にしてくれよ」

 「そうか。美人らしいぞ。そう言わず、お前の好みならいいんじゃないか?」

 「まずいな。俺も二十八になるから、父がうるさくて敵わない。黎もひとつ下だけど、大変だろ?見合い話を蹴って、あの厳格な父上は怒らないのか?お前、最近母上いないし、かばってもらえなくなったんじゃないか?」

 広也は黎の家庭環境もよく知っているので、母が父の間に立って自分を庇ってくれていたことを知っている。
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